一章 1

3/10
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
『なに』 『あーしの秘密も、和香なら受け入れてくれんのかな』 『秘密?』 それは、心の準備なんて時間を挟む間もなく。 『あーし、男なんだよねぇ』 『は……?』 全く理解も何も出来ない頭で、鼓膜だけがその音を拾っていた。 するりと私の額を撫でる手が、前髪を横に流す。 むちゅっと、額に唇の当たる感覚があってもまだ、その言葉を信じることなんて、出来なくて。 『のどか』 やけに低くなったその声が、目の前にいた『佐藤蜜』だった人間を、そう認識させないようにと働きかけてくるから、佐藤の胸元に手を当てて引きはがすように押した。 『……む、胸』 『あぁ、これパット。外したらぺっちゃんこ。もう貧乳通り越して胸なんてないよぉ』 『……し、信じられるわけ……だって一年の頃からの付き合いなのに、なんで今更……』 本気か?冗談か?からかわれているのか? じゃあこの低い声は? この肩に回ってる力強い腕は?筋肉は? 男にしては細身の肩は……? 『やっぱり』 佐藤は私の頭に手を乗せて、呟く。 『和香はこんな突飛な話でも、一生懸命、考えてくれんだね』
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!