1人が本棚に入れています
本棚に追加
数日後。
浩輔はまたしても、ゲームのイベントだと騒ぎ始めた。どうやら今度は友人とポイントを競っているらしい。詳しく聞こうとも思わないわたしは、きっちんdね夕ご飯をつくりながら、「はいはい」と聞き流していた。浩輔がなにやらわめいていたようだけれど。食事の支度は集中して手早くやらないと「ご飯はまだか」コールがはじまるのでかまっていられないのだ。わたしは、換気扇の作動音やフライパンで炒め物の音に包まれて、浩輔の話を忘れていった。
戦場のようなキッチン仕事を終え、総菜をテーブルに並べたところで、浩輔がずんずんとわたしへ近づいてきた。
口元を固く結んで私の前に立つと、いきなりぎゅうう、とものすごいちからでわたしを抱きしめた。
なに? なにが起きた?
ふいをつかれ、わたしの頭は真っ白になった。
浩輔は、数秒間たっぷりとぎゅうう、をすると、ぱっと離れた。
「ど、どうした?」
しどろもどろのわたしに、
「これが欲しかったんだろ?」
浩輔はハグのジェスチャーをして見せた。
片方の口元をくい、と上げ、「ほれ」とわたしの鼻先にタブレットを突きつけた。
「画面ロック解除、よろしく」
浩輔はふふ、と勝ち誇ったように笑った。
……やられた。
あの、もじもじクンだった浩輔が、太い眉の下の強い瞳で、わたしの目を射た。いつのまに、こんなスキルを習得したのだ。まさかサッカークラブではあるまい。子どもだと思っていたのに。思っていたのに!
わたしの頬は急激に熱くなっていった。
最初のコメントを投稿しよう!