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腰に両手を当て、わたしは仁王立ちになって睨み下ろしていた。小学5年生の息子の浩輔はわたしを見上げ、じっと見つめ返してきた。リビング用スリッパに薄汚れたエプロン姿出凄んで見せても威力は低いらしい。見返す目には恐怖の色などみじんもなかった。
浩輔は胸に抱えたタブレットをぐっと握りなおした。
「画面ロック、外してくれよ。ゲームのイベント、今日までなんだ」
タブレットはわたしのもので、子どもには貸し出しの形をとっていた。
「イベントだからって昨日も一昨日もうちのルール、破ったじゃない」
うちではゲーム時間を1日2時間、やっても3時間までと決めている。昨日はサッカークラブが急遽おやすみになったからということで3時間までよしとしたが、浩輔は時間を忘れ、わたしが止めるまで遊んでいたのだ。
「今日はちゃんと守るから! お願い!」
黒くてきれいに澄んだ瞳だ。このあいだまでわたしの腰ほどの身長しかなくて、文字通りわたしのスカートの陰に隠れてもじもじするほどの引っ込み思案だったのに、いまやわたしに睨まれても怯みもせず堂々と言い返してくる。
怖がりだった浩輔の、イガグリ頭をざりざりとなでながら「大丈夫だよ」と言っていたころが懐かしい。
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