推し!?

5/5
前へ
/5ページ
次へ
 数日後。  浩輔はまたしても、ゲームのイベントだと騒ぎ始めた。どうやら今度は友人とポイントを競っているらしい。詳しく聞こうとも思わないわたしは、きっちんdね夕ご飯をつくりながら、「はいはい」と聞き流していた。浩輔がなにやらわめいていたようだけれど。食事の支度は集中して手早くやらないと「ご飯はまだか」コールがはじまるのでかまっていられないのだ。わたしは、換気扇の作動音やフライパンで炒め物の音に包まれて、浩輔の話を忘れていった。  戦場のようなキッチン仕事を終え、総菜をテーブルに並べたところで、浩輔がずんずんとわたしへ近づいてきた。  口元を固く結んで私の前に立つと、いきなりぎゅうう、とものすごいちからでわたしを抱きしめた。  なに? なにが起きた?  ふいをつかれ、わたしの頭は真っ白になった。  浩輔は、数秒間たっぷりとぎゅうう、をすると、ぱっと離れた。 「ど、どうした?」  しどろもどろのわたしに、 「これが欲しかったんだろ?」  浩輔はハグのジェスチャーをして見せた。  片方の口元をくい、と上げ、「ほれ」とわたしの鼻先にタブレットを突きつけた。 「画面ロック解除、よろしく」  浩輔はふふ、と勝ち誇ったように笑った。  ……やられた。  あの、もじもじクンだった浩輔が、太い眉の下の強い瞳で、わたしの目を射た。いつのまに、こんなスキルを習得したのだ。まさかサッカークラブではあるまい。子どもだと思っていたのに。思っていたのに!  わたしの頬は急激に熱くなっていった。  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加