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「……お嬢」
朦朧としたまどろみの中、いつも自分をその水底から掬いだすのはこの声だ。
低い、落ち着いた男の声。
白濁した意識から這いだすようにして目覚めたアリサは、ベッドから起き上がる。
ふと、その視界に化粧台にかけられた鏡が目に入る。
自然に、今の自分の姿も。
……ひどい顔だ、と思った。
あの夢のあとはいつもそうだ。さらりとしたブロンドの髪は今はひどく乱れ、ぱっちりとした印象の青い瞳は険しく歪んでいる。
「……なおさなくちゃ」
のっそりとベッドから降りたアリサは鏡に向かって腰掛け、メイクを始めた。
彼女に声をかけた男ーーーーサカモト・エイジは部屋の隅の壁に背を預け、黙ってその様子を見ているだけだ。
彼も理解しているからだ。
アリサが、その顔を化粧で飾らなければいられない理由を。
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