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謎の女性
俺は取り敢えず、なけなしの1万円だけを返済しに行き、部屋に戻って先程の強面チンピラが次来た時の対処法を考えようとしていた。その時、インターホンが鳴った。まさか、次の取り立てじゃ無いだろうなと一瞬思ったが、俺は1社からしか借金をしていないので、そんな筈は無いなとドアを開けた。
白と黒! とにかく白と黒が目に入った。真っ白な長袖のワンピースで黒髪ロングのストレート。
「こんにちは」
俺は知り合いでは無いと分かり、黙って会釈をする。
少し暗い印象の女性だ。背は少し高めでガリガリの体型。透き通るような白い肌。目は細いが、それ以外は整っている顔立ちだ。悪い表現だが、一言で言うと幽霊のようだ。俺より歳上だというのは間違い無いが、年齢がよく分からない。ただ、どこかで見たような気がする。
「突然すみません。私、この階の端の部屋に住んでいるんですけど、先程の話、聞いてしまいました」
「ああ、御迷惑お掛けします」
「いえいえ。それより、お金が必要なんですよね? お貸ししますよ?」
は?! 何だこの人は?
「俺、働いて無いですよ」
「大丈夫です。大西さんって競馬で借金されたんですよね? あなたにはギャンブルの才能があります。だから、また必ず勝ち出します」
「そうなんですか?」
「はい。だから、これ使ってください」
彼女は茶封筒を差し出した。かなり厚みがある。俺は取り敢えず受け取り、中を少しだけ覗いた。1万円札だ!
「現金50万円と1万円のプリペイドカードが入っています。競馬には現金を使って、その他はプリカを使用してください。プリカが使えない場所で何かを購入するのは止めてください。競馬にいくら使ったのかが分からなくなります」
「でも、こんな大金」
「50万円必要なんですよね?」
「いや、確かに必要なんですけど、見ず知らずの方に借りる訳には」
「大丈夫です。返してくれれば問題ありません」
怪し過ぎる。もしかすると、暴力団関係者と繋がっていて、利子やら何やら難癖をつけて高額を要求してくるのかも知れない。俺が断ろうと思った時、一瞬早く彼女が喋り出す。
「無利子で構いませんが、守って欲しい事があります」
俺は無言で続きを聞く。
「毎晩、残ったお金を返して欲しいんです。必ず使わなかったお金は返してください。競馬での使用分を確認したいんです。そうしてもらえれば、翌日、再度お金をお貸しします」
「う~ん」
「あと、私のお金で消費者金融へお金を返すのだけは止めてください」
俺は変だと思い質問する。
「このお金で借金を返済したらダメなんですか?」
「はい。私への返済優先を約束してください。私への返済が終われば、残ったお金で消費者金融の借金返済に充ててください」
ちょっと予定が狂った。この金で返済出来るから、強面のチンピラが来ないと思っていたのに……。そうなるとこの50万円を元手に100万円以上にしないとダメって事だ。
「あの……俺、担保になるもの何にも無いですよ」
「じゃあ、返せなかった時は寿命を頂きます」
「えっ?!」
「ふふふ、冗談です。では、今晩また来ます。サヨナラ」
彼女は手も振らず、歩いて自分の部屋に帰っていった。俺の部屋は2階の1番西で、彼女の部屋は3つ部屋を挟んで1番東のようだ。
寿命を頂く? どういう冗談だ? 彼女の見た目が幽霊っぽいから、それに掛かっているのだろうか? それは幽霊じゃなくて死神だろ、と思った時、俺は思い出した。彼女を喫茶店で見たという事を。
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