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勝負
翌朝、新聞受けに茶封筒が入っていた。中を確認すると、しっかり50万円が入っている。恐らく、プリカもチャージされているのだろう。俺は身支度を整えてコンビニへ向かう。一応、幽霊さんの部屋にも寄るが留守のようだ。そんな事よりも、今日こそは勝たなければならない。そう意気込んで賭け事を行った場合、何故か大抵負ける。
案の定、俺は今日も5万円を失ってしまった。そして最終レース、負け分を取り返そうという訳では無く、ちょっと気になった名前の馬がいたので単勝を5,000円だけ買った。
「最内ゴーストウーマンが粘る! 並んだところでゴール!」
写真判定の結果、ゴーストウーマンが鼻差で残しており、8倍のオッズで俺は4万円を手にした。とは言うものの、結果として今日は1万円の負け。
俺は何度も幽霊さんの部屋を訪れるが全く出会えていないし、負けているのに謝る事も出来ていない。だが、毎朝ちゃんと50万円と1万円のプリカが新聞受けに入っている。現在のところ、82,000円の負け。こんな調子じゃ、また、強面の借金取りが来るだけだ。そんな事を考えながら、平日は、50万円をそのまま返し、プリカだけ少し使う日々を過ごす。
土曜日、当然のように新聞受けには茶封筒に50万円とプリカ。幽霊さんはどれだけ金持ちなんだろう? 俺に惚れているのだろうか? 本当に俺の競馬の才能を見抜いたのだろうか? 理由は何だって良い、とにかくチマチマした賭け方じゃダメだ。
いつものようにノミ屋へ行き、爺さんに紙と金を渡す。爺さんは眼鏡越しに俺をジロッと睨んだ。恐らく、こんな大金使って大丈夫か? と思ったのだろう。俺は自信のあるレースにいきなり単勝10万円を突っ込んだんだ。
結果は……
惨敗。
そして次のレースでも10万円を失った。こんな流れで勝てる訳が無いと思いながら、何をとち狂ったかメインレースで残り全額を賭けてしまった。
結果は……
何と1着!
1番人気の1.8倍とは言え、掛け金が30万円なので54万円が返ってくる。俺は勝ちで1日を終える為、最終レースもせずに換金して家路に着いた。とにかく、少額でも勝ったところを見せたい。その日、俺は幽霊さんの部屋には寄らず、夜、56万円と少し使ったプリペイドカードを茶封筒に戻し、新聞受けに入れた。「勝ちましたよ~」とか言いに行くのは俺の美学に反する。多分、今日も留守にしているとは思うが……。その日は最近で1番気分良く眠りにつけた。
翌朝、いつも通り、新聞受けに茶封筒が入っており、50万円とプリカが入っている。特にいつもと変わりは無いが、昨日54万円だったという事は必ず気付いているだろう。幽霊さんは喜んでくれただろうか? それとも、全く気にも止めないのだろうか? まあ、何だって良い、この流れに乗って圧勝するだけだ!
俺は意気揚々とノミ屋へ向かった。
結果は……
惨敗。
俺は1日で50万円負けてしまった。5万円返却してもらえるが、そんな事はどうだって良い。幽霊さんに顔向け出来ない。まあ元々、会いたくても全く会えて無いのだが……。
普段通りのダラダラした平日を過ごし、また土曜日がやって来る。生活費を含めると、既に借金は100万円を越えている。今日も50万円全額勝負しないと返せる訳が無い。俺は、異常な精神状態になっていると感じながらも止める事は出来なかった。
結果は……
当然のように負け。
と言っても、何とか5万円程度の負けに抑える事が出来た。テンションがた落ちで家路につく。明日勝たないと面倒な事になる。借金の利息分と10万円の家賃支払い期日が来週の金曜だ。
日曜日、俺はメインレースのみに50万円を突っ込む事に決めた。かなり強い馬だと思っている。1番人気だろうけど、オッズで買う馬を決めたらダメだ。100万円にしないといけないからと計算しだしたらギャンブルでは勝てない。
結果は……
勝利!
やった! オッズは2倍だ。もうちょっとつくと思ったが取り敢えず良かった。これで幽霊さんからの借金はある程度返す事が出来る。
その晩、俺は100万円とプリカを幽霊さんの部屋の新聞受けに入れて、少し気が楽になった。
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