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死神
翌日の月曜日、いつものように新聞受けを見る。……が無い! 茶封筒が無い! 今日はまだなのか、それとも忘れているのか? もしかして盗まれた? 俺は頭をフル回転させる。とにかく、直ぐに着替えて幽霊さんの部屋のインターホンを押すが当然のように反応は無い。ヤバい、想定外だ。金曜の借金と家賃の支払期限もそうだが、とにかく現金が千円も無い。俺は幽霊さんが来てくれる事を祈りながら、出来る限り金を使わないよう過ごす。来ない……。帰って来ない……。俺は、付き合い初めのカップルが、恋人から連絡が入るのを待つかのように、一日千秋の思いで幽霊さんが帰って来るのを待った。だが、一向に帰って来ないし、次の日も新聞受けにお金は入って無かった。
別に詐欺にあった訳では無い。どちらかと言うと、金銭的には幽霊さんの方が少し損をしている。だが、幽霊さんがいないと俺は生きていく事すら困難な状況だ。俺は、なけなしの小銭と冷蔵庫に入っている僅かな調味料と水で空腹を満たして1週間を過ごした。
土曜日、空腹の為、朝5時に目が覚めた。昨日は利息と家賃の支払い期日だったのに、当然払えていない。幽霊さんからのお金は今日も新聞受けには無かった。昨日から水しか口にしていない。空腹や借金、幽霊さんの事など、色々なストレスで精神的に参っていたのだろう、俺はタンスに残していた10万円に手をつけた。
俺はプロ馬券師になる時に、1つだけ決めた事がある。それは、この10万円を1点勝負し、勝ったら馬券師を引退して働く事。そして、負けたら潔く命を絶つという事を……。
俺はフラフラの状態でノミ屋へ向かう。こんな状態でレース予想なんて出来ないし、金が無いので競馬新聞も買えない。だが、買う馬は決まっている。格上挑戦となるので人気はそんなに無い。だが、その馬に命を賭ける。1番枠のゴーストウーマンに……。
俺は東京10レース単勝1番10万円と記入した紙と10万円を爺さんに渡す。爺さんは見慣れた為か無反応だ。俺はフラフラになりながらテレビの前に座った。空腹のせいか、命懸けのせいか、ドクドクと鼓動が耳に届き、うるさく感じながらレース開始を待つ。
「スタートしました! お~っとゴーストウーマン大きく出遅れ~!」
嘘だろ?!
ドサッ
俺はゆっくりと斜め後ろに倒れた。命を賭けたレースがスタート直後に終わり……。
『じゃあ、返せなかった時は寿命を頂きます』
頭の中を幽霊さんの言葉が流れた。彼女は本当に死神だったんだろうか? 俺の寿命は彼女に奪われた……。
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