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教室に入ると、暖かで優し気な木の匂いが鼻腔を通り抜けた。
そういえばこの学校、去年建て替えたばかりで新しい校舎なんだっけ。
深呼吸をし、辺り一面を見渡すと、既に何人かの生徒が席に座っているのが分かった。
初めて見た教室の風景に緊張し、心臓が早くなる。
俺の出席番号は十一番。
六人ずつの列になっているため、席は窓側から二列目の後ろから二番目だった。
サ行なので半分諦めていたが、やっぱり窓側にはなれなかったなぁ。なんて考えながら、机の横のフックに鞄をかける。
初日に使いそうな筆箱とファイルを適当に机の中にしまい、緑色の椅子に座った所でようやく落ち着いた。
しばらく“ご入学おめでとうございます”とでかでかと書かれた黒板を見つめていると、ガラガラッという効果音と共に騒がしさが教室の中に入り込んできた。
「はよーっす」
思わず声のした方に顔を向けると、そこにはキラキラと輝く生き物が居た。
金髪、ピアス、そして片手には何故かココアシガレット。
とにかくオーラも見た目も眩しくてすぐに目を反らす。
今まであんまり関わってこなかったような人だな。と思っていると、左横の机の上にドスッと大きな鞄が置かれる。
「よろしくな」
左上を見上げると、さっきの金髪の人が居た。
「こ、こちらこそ。」
窓から差し込む陽の光によってさらに華やかになった彼の姿を思わずじっと見つめてしまう。
キリッとした一重の目に、薄く形の良い唇。鼻の先はシュッとしていて、顔全体の堀が深い。先ほどは気が付かなかったが相当イケメンのようだ。
なかなか目を反らさない俺を不思議に思ったのか、彼は右に首を傾げる。
「どした?俺の顔になんかついてる?」
「え、あ、いや!綺麗な顔だなあと思って…」
すると目を何回かぱちくりさせ、俺をみてにひっと歯を見せて笑った。
「お、そうか?ありがとな!あ、俺、稲垣和樹。」
「俺は、佐久本晴。」
「んじゃ、晴って呼ぶわ!俺の事も和樹でいいぞ」
「うん!」
「ほい、じゃ、これ。友情の証。」
そう言うと、和樹は右手に持っていたココアシガレットの箱の開け口を俺の方に向ける。
本当にいいのかな?と思ったが、にこにこと向けられる笑顔に押され、箱から一本抜き取った。
「ありがと」
「おうよ」
周りの視線を少し気にしながら口に含むと、甘くて優しい味が口に広がる。
その頃にはもう、いつの間にか緊張は消えていた。
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