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「よーし、みんな揃ってるなー」 しばらく友情の証という名のココアシガレットを味わっていると、前の扉からよく伸びる声と共に担任らしき人が入ってきた。 180cmは軽々と超えているであろう高身長に、低いが教室全体に通る声。 どこかで聞いたことのある声だな、なんて考えながら口の中のものを全て飲み込み、姿勢を正す。 ちらっと左横に視線を向けると、和樹はまだモグモグと口を動かしているようだ。 「おー高校生ってのは若いなあ」 先生は、呑気にへらっと笑った後、教室全体を見渡す。 まるで一人一人顔を確認していくかのような丁寧な仕草に、俺は何故か不思議な気持ちになる。 バチッ 目が合った。 窓から差し込む日光が先生の黒い瞳を照らし、キラキラと黒曜石のように輝いた。 サラサラの黒い髪は長めのセンターパートにセットされ、すぐ下の綺麗な二重の切れ長の目と合わさるとなんとも色気のある雰囲気を醸しだしている。 真っ白のワイシャツは違和感なく着られており、その上部には柄物のネクタイがつけられている。 吸い込まれるようにじっと見つめる俺を先生は一瞥し、すぐにその視線を隣に移した。 「なんか食ってるなー?そこの金髪」 特に起こった様子もなく面白そうに笑う先生に、和樹はにひっと笑顔を向ける。 「これ、ココアシガレット。先生もいる?」 「おーいるいる。これ美味しいよな」 「うす」 「…」 「…」 「…ってなるかーい!」 あまりにも間の空いたノリ突っ込みを披露する先生に、一瞬教室全体の時が止まる。 当の本人は滑ったことに気が付いていないのか、何事もなかったようにまた視線を動かした。 数分たった後やっと満足したのか、木で作られた桟の上に置いてあった角の四角いチョークを手に取る。 カッカッカッカ… 軽やかなリズムと共に書き上げたそこには、デカデカと“飯降昇”と書かれた。 いぶり…しょう…? 「そういえば自己紹介してなかったな。このクラスを担当することになった飯降昇(いぶりのぼる)だ。」 ああ、音読みだったか。 「教科は英語。点数悪いやつは即補習だかんなー」 悪戯をする小学生のような笑顔で歯を見せる飯降先生に、すぐに生徒からのブーイングが降りかかる。 「えー、俺英語苦手なんだよなあ」 「私も」 「最悪じゃーん」 「じゃあ勉強しろ。案外勉強は楽しいぞ???」 「それは先生だからでしょ」 「そうだそうだー」 周りがガヤガヤと騒ぎ始め、そろそろ収集付かなくなってきた頃に先生はパンッと一回手を叩き、注目を集める。 「はいはい、じゃあそろそろ入学式始まるから移動すんぞー」 日誌を持って廊下に出る先生に続き、生徒はぞろぞろと教室から出ていく。 俺は最後のほうでいいかなと思い、みんながある程度外に出終えるまで座って待っていた。 「あ、誰か電気消してー」 少し経って歩き始めた頃、廊下から聞こえたよく通る声に俺は後ろを向く。 あと数人ほどしか教室内に残っていなかったので、下の方にあった真っ白なボタンをポチっと押す。 するとさっきまで暖かなオレンジ色に包まれていた空間は一気に暗くなった。 「あっ、和樹。一緒に行こ」 「おう」 暗い中でも目立つ金髪を見つけ、俺は隣に並ぶ。 飯降先生を先頭にした長々続く列は、いつの間にか動き出していた。
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