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2ー2 女神の加護
「怖いなら、下で待っててくれればよかったのに」
俺が木にしがみついて涙目になっているアル兄に言うと、アル兄は、ムッとして叫んだ。
「怖くなんか、あるもんか!」
俺は、ため息をつくと、上の方にあるムートの巣へとするすると木を上っていった。
ムートというのは、魔物の一種で握り拳大の大きさの蜜蜂のことだ。
俺たちは、明日の母様の誕生日に蜂蜜たっぷりのケーキを作るつもりだった。
この世界では、蜂蜜は、かなりの贅沢品だ。
ムートは、気が荒く、集団で襲われたら冒険者であってもただではすまない。
だから、ムートの蜜は、高いし、なかなか手に入らなかった。
「あ、あった!」
俺は、枝の葉陰に隠れている巨大なムートの巣を見つけて声をあげた。
アル兄がぎょっとして叫んだ。
「気をつけて!メル!」
「大丈夫だよ、アル兄」
俺は、そっとムートの巣へと手を伸ばした。
巣に触れる俺の手に気づいたムートが俺の回りをぶんぶん飛び回っているけど、俺は、躊躇せずに巣へと手を突っ込んでムートの巣の欠片を取り出した。
「ごめんよ、少しだけ蜜をわけてね」
俺は、囁くと、取り出した欠片を腰にぶら下げていた収納袋へと入れた。
ムートは、俺の周囲を飛び回っていたが、決して、俺を襲うことはなかった。
これは、俺に与えられた女神の加護のせいだった。
この世界では、5才になると全ての子供が神の神託を受ける。そして、そこでなんらかの神の加護を受けることになるのだった。
アル兄は、商業の神 ヘリエルの加護を受けていた。
そして、俺はというと、愛と美の女神ウルドの加護を受けていた。
「すごいな、メル」
アル兄は、感心したように俺のことを見上げて言った。
「ムートだって危険な魔物のはずなのに、ムートに刺されることなく蜜をとれるなんて」
俺は、にかっと笑った。
アル兄が、はっと息を飲むのがわかる。
ヤバい!
無駄に魅了してしまっている!
俺は、アル兄に言った。
「アル兄、急いで家に帰ろう!母様が心配しているかもしれないし」
「あ、あ・・」
アル兄がはっとして頷いた。
俺は、愛と美の女神の加護を受けているせいで、気をつけてないと誰でも、何者でも、すぐに魅了してしまうのだ。
俺は、アル兄の脇をすり抜けて下へと降り始めた。
「メル!気をつけて!」
「心配しないで、アル兄」
俺は、まるでエンモ(猿)のようにするすると木の枝を伝って下へと降りていく。
「兄さんこそ、気をつけて!」
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