【第2章】 第9話 インシデント5:後始末

3/4
71人が本棚に入れています
本棚に追加
/1393ページ
ポルデュラを見送ったバルドとベアトレスはそれぞれ後始末に入る。 「バルド様、 私はセルジオ様をこのまま沐浴(もくよく)へお連れしてもよろしいでしょうか?」 ベアトレスはセルジオを抱き隣室へ向かう事を伝える。 「・・・・ベアトレス様、 私もご一緒致します。 セルジオ様の寝所を整えますので、 しばらくそのままお待ち頂けますか?」 バルドは何かを感じているのか?セルジオの居室周囲に気を巡らしている様だった。 セルジオが目覚めたことでホッとしていたベアトレスはバルドのその行動に再び緊張し、身体を強張(こわば)らせる。 ベアトレスの様子にバルドはそっと言葉を繋いだ。 「ベアトレス様、 念の為にて。ご案じなさいますな」 バルドは乳と血液で汚れたマットとシーツを取替ながら穏やかな声でベアトレスに伝えた。 「ベアトレス様・・・・ 今まで、この様な出来事(できごと)に あわれた事はございますまい。 乳と血が入り混じるこの部屋の臭いにも よく()えておいでです。 お身体もお気持ちもさぞやお疲れの事と思います。 今しばらく、セルジオ様と共にそちらの椅子に腰かけてお待ち下さい」 バルドのいつになく優しい物言いにベアトレスは黙って従った。 「感謝致します・・・・ 実は私・・・・足元がふらついておりました・・・・ このままではセルジオ様を落としてしまうと 思っていたところです・・・・」 ベアトレスはセルジオを抱えたまま倒れそうだったわが身を椅子へ滑らせた。 『本当によかった・・・・セルジオ様・・』 ベアトレスは自身がこのまま意識を失わない様にセルジオの深く青い瞳をじっと見つめる。 『・・・セルジオ様?』 かすかな違和感を覚え、うつろになりかけていた意識が戻る。 「バルド様っ! セルジオ様のご様子が先程までと・・・・ 少々瞳の色が濃くなられたか?」 感じた違和感をバルドへ伝える。 「・・・ベアトレス様、 後ほどポルデュラ様のお部屋へ伺います。 その際にベアトレス様の感じておられる仔細が明らかになりましょう。 今しばらく、ゆるりとなさいませ」 バルドはベアトレスの疲労を少しでも回復させてから『始まりのはなし』を伝えたいと思っていた。 しばらくするとバルドは汚れたセルジオの寝所の準備を整え、ベアトレスへ声をかける。 「ベアトレス様、お待たせをいたしました。 隣室へセルジオ様の沐浴へまいりましょう」 ベアトレスはセルジオを抱え、椅子から立ち上がる。 ガタッ! フワッ・・・・フラリッ! ベアトレスは足元がふらつき、倒れそうになった。 ブワッ! ガッシッ! バルドが慌ててベアトレスへ駆け寄り、セルジオを抱えるベアトレス毎マントで(くる)み身体を支えた。 「ベアトレス様、 大事ございませんか?足元が・・・・ セルジオ様は私が隣室へお連れいたしましょうか?」 バルドはベアトレスからセルジオを受け取る。 「バルド様・・・・ 私・・・・恥ずかしながら・・・・ 足元が先ほどからおぼつかないのです。 立っておりますだけでフラフラとして・・・・」 申し訳なさそうにバルドに自身の状態を説明した。 「いえ、その様に気丈なお振舞(ふるまい)、ベアトレス様だからこそできることかと存じます。この後のポルデュラ様からのお話もございます。あまり、ご無理はなさらないで下さい」 バルドはベアトレスの身を案じていた。 ベアトレスは呼応する。 「バルド様、 ありがとう存じます。 隣室までセルジオ様をお頼みいたします」 ベアトレスはセルジオをバルドの両腕に預けた。
/1393ページ

最初のコメントを投稿しよう!