【第1章】 第6話:西の森からの脱出

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エリオスはエステール伯爵家領内を西へ向け行軍し、エステール伯爵家、セルジオ騎士団城塞、西の屋敷の南門からフェイユ河の堤へ向けて進んだ。 三つの堤を同時に切るため、三手に分けそれぞれの堤を開く準備をさせていた。 「エリオス様、 第一、第二、第三とも堤を開く用意が整いました」 エリオスは第三の堤で指揮(しき)()っていた。 第三の堤は西の森に最も近くサフェス湖から流れ出るフェイユ河の下流に位置している。 フェイユ河の流れが起こす風にセルジオと同じ金色に輝く髪がなびいている。 堤を切る準備が整った知らせを受けるとエリオスは号令をかけた。 「分かった! 堤は第三から開ける。 第三を開けた(のち)、第二、第一と順次開ける。 おのおの持ち場にて待機。合図は『鹿の声』とするっ!」 シュタイン王国では鹿は神の化身と(あが)められ、その鳴き声は『神の声』とされていた。 そのため、戦場での合図を音とする時、『神の合図』として使われていた。 エリオスは第三の堤から更に下流に位置する西の森へ視線を向ける。 『シュバイルとサントはメアリと会えたであろうか?』 エリオスは第三の堤を切る前に2人がメアリとアン、キャロルを伴い戻ってくれる事を強く願っていた。 ガチャッ! エリオスは重装備の鎧を身に付けた自身の胸元に左手を置いた。 幼い頃から身に付けているセルジオとオーロラ、ミハエルと(そろ)いの首飾り『月の(しずく)』に願いを込める。 『月の(しずく)よ! どうか、セルジオ様をっ! メアリとアン様、キャロル様をっ! お守り下さいっ!』 エリオスは目を閉じ西の森へ向け祈りを捧げるのであった。
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