79人が本棚に入れています
本棚に追加
ボンッ!!!
ブワッッンッ!
油が広がった床から炎が勢いよく広がる。
ブワッッ!
バッバンッ!
立ち上った炎は山小屋を覆い屋根を一気に吹き飛ばした。
「うぎゃぁーーーー!うわぁぁぁーーー!」
ヤギンスは山小屋を包囲する弓隊、扉の前で待機していた剣隊に叫んだ。
「者ども!下がれ!小屋より下がるのだ!」
ヤギンス率いる先鋒隊の隊列は一気に乱れ、チリジリに広がる。
「うぎゃぁーーーー!!!目が見えぬ!目が見えぬ!」
ドサァッ!
ドザッ!!
両目を押え山小屋の中の剣隊6人が飛び出し、ヤギンスの前に倒れ込んだ。
「セルジオはいかがしたっっっ!」
ヤギンスが炎に覆われた山小屋に近づく。
「ヤギンス様っ!
危のうございます!
セルジオは小屋の中におります。
この炎に包まれては流石に・・・・」
騎士の一人が言った。
「いや!
青き血が流れるコマンドールぞ!
攻めの駒として申し分ない者ぞ!
炎の中から引き釣り出せぇっ!」
ヤギンスは我を忘れているかと思える程の叫び声を上げた。
「ヤギンス様っ、
ここまで炎が上がっては無理にございます!」
ドッカッ!!
答えた騎士にヤギンスの拳が飛んだ。
「無理だと?またとない好機ぞっ!
そなたが炎の中へ入れぇっっ!
セルジオを引き釣り出せ!」
戦闘中も常に冷静沈着で穏やかさを失わないヤギンスの言葉とも思えない言動に周りがどよめいた。
そのどよめきと同時に響いてくる地鳴りに最後方の槍隊が首を傾げた。
『キュウ!キュウ!キュウ!』
鹿の声が3度、第三の堤から山肌を駆け上がる。
「第三の堤!開門っ!
続き第二、第一の堤!開門っ!」
ガコッ!
ザバァァァァァーーーー!!!
エリオスが号令をかける。
開いた堤から水が一気に斜面を下った。エリオスは第二の堤へ目を向ける。
水は生きているかの様に踊りながら勢いを増す。
水の精霊ウンディーネの姿と言われる水龍がサフェス湖から降り立ち山肌を下っている様に見える。
エリオスは胸に下がる首飾り月の雫へ鎧の上からそっと手を置く。
「これで、せん滅だっ!
スキャラル国は攻め所を誤ったっ!」
エリオスは不安な思いが的外れであるようにと祈りながら西の砦に目を向けた。
西の砦の先にはセルジオがメアリらの救出に向かった西の森がある。
「エリオス様っ!」
名前を呼ばれ振り向くとシュバイルとサントの姿があった。祈りが通じた思いになる。
「シュバイル!サント!
間に合ったか!」
エリオスはシュバイルとサントに抱えられているメアリ、アン、キャロルの3人の姿に胸をなで下ろした。
だが、セルジオが一緒にいないこと、3人の様子が不安げなことを見て取るとシュバイルへ指示を出す。
「シュバイル、サント、
そのまま、西の屋敷へ戻れ!
ここは危険だっ!」
シュバイルの瞳に陰りを見たエリオスはエステール伯爵家の居城で最後に交わしたセルジオの言葉を思い出す。
『万が一だ。万が一・・・・頼んだぞ』
エリオスは再び西の砦に目を向けると月の雫へ想いを込めた。
『月の雫よ!
どうか、どうか、
セルジオ様をご無事でお戻しくださいっ!』
最初のコメントを投稿しよう!