【第1章】 第7話:西の砦の攻防

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シュバイルとサントはエリオスからの指示を受けるとメアリらを抱きかかえたまま西の屋敷へ向かった。 「サント様、 私はもう大丈夫です。歩けます」 メアリが恥ずかしそうに言う。 「いえ、 城内へ入るまではこのままにて」 サントは『ナイト』の言葉そのままに物腰(ものごし)美しい騎士であった。 エステール伯爵家領西門をくぐり、石造の大門を通り抜けセルジオ騎士団城塞、西の屋敷の南門を抜ける。 城内に入ったサントはメアリを下した。 「さっ、さっ、お屋敷へお入り下さい。 我らはエリオス様の所に戻ります」 シュバイルがアンとキャロルをそっと下し、メアリに託した。 メアリ達をエステール伯爵家セルジオ騎士団城塞、西の屋敷城壁内へ送り届けるとシュバイルとサントは(きびす)を返す。 その場を立ち去ろうとするシュバイルの背中にメアリが半ば叫ぶ様に声を掛けた。 「・・・・あのっ! シュバイル様!セルジオ様は・・・・」 メアリはセルジオの事が気がかりでならなかった。 シュバイルとサントに抱えられて間もなく『ボンッ!!!』と響いた爆発音、木の焦げる臭いに胸が締め付けられる思いだった。 「メアリ様、 セルジオ様はご無事でいらっしゃいます! エリオス様も堤を切られたではありませんか。 ご案じ召されるな。 今はアン様とキャロル様を早く屋敷の中へお連れ下さい」 シュバイルは優しく微笑みメアリを西の屋敷内へ入る様に(うなが)した。 「そう・・・そうですね! きっと、ご無事でいらっしゃいますよね! ここまでお連れ下さり、感謝致します」 メアリは不安な思いを拭い去る様に明るく笑った。 シュバイルとサントの後ろ姿を見送るとメアリはアンとキャロルの手を引き西の屋敷へ向けて石畳の道を進む。 「アン様、キャロル様、 大事ございませんか?」 優しく語りかける。アンはうつむいたままメアリの左手をギュッと握った。 「メアリ、 キャロルはクルミの入った篭を 持ってくるのを忘れてしまいました。 クルミでお菓子を作るとセルジオ様と お約束をしていましたのに・・・・」 キャロルはセルジオとの約束を果たせない事が気がかりの様だ。 「姉さま! 恐かったですね! シュバイル様とサント様が来て下さらなかったら どうなっていたでしょう?」 アンより2つ年下のキャロルは大きく息を吐き素直にアンに話しかけた。 「・・・・」 アンは聞えていないのかうつむいたまま顔も上げず何も答えない。 「姉さま?・・・・」 キャロルがアンの顔を覗き込んだ。 大粒の涙が石畳の道にポタポタと落ちる。 「私が・・・・私が!クルミを拾いたいなどと言ったから!」 アンが関を切った様に泣き出した。 怖い思いをしたこと、セルジオが一人で助けにきたこと、セルジオを残してきたこと、全て自分の責任と思い込んでいた。 「アン様、 そうではありませんよ。 突如、攻め入ってきたのです。 クルミ拾いとは何の関係もありません。 もし、攻め入る事が解っていたなら セルジオ様は始めから行ってはならぬと申されましたよ」 メアリは自分自身を落ちつかせる様に静かにゆっくりとアンに言う。 「そうなの?メアリ!私のせいではない?」 アンはメアリの顔を見上げた。メアリは優しく微笑みを向ける。 メアリの目に涙が浮かんでいるのが見えた。 「左様ですとも。 ご案じなさいますな。 セルジオ様のご雄姿は素敵でしたね」 シュバイルがメアリに向けた言葉そのままが自然に口をついて出る。 『シュバイル様も同じ事を思っていらしたのかしら?』 いくらセルジオでもあの人数を一人で討ち果たせるものだろうかとメアリの不安は一層深まるのだった。
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