79人が本棚に入れています
本棚に追加
セルジオが手にしている剣はエステール伯爵家、騎士団団長が継承してきたものだった。
エステール伯爵家裏の紋章ユリの花を模した柱頭部分に深く蒼い色のサファイヤが埋め込まれている両刃の剣だった。
ガチャッ!
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
鞘におさめたサファイヤの剣をやっとのことで腰ベルトごと外す。
じっと愛おしそうにサファイヤの剣を見つめた。紋章部分にそっと口づけをする。
剣を見つめ話しかける。
「はぁ、はぁ、よ・・・くぞ、
今まで・・・・ふぅ・・・・
私と・・・・共に戦ってく・・れた・・・・
礼を・・申すぞ・・・・」
セルジオは左腕でサファイヤの剣を抱えると今一度、ユリの花の紋章部分に口づけをした。
『ここで、私の代でこの剣を失ってはならぬっ!』
サファイヤの剣に別れを告げると革のベルトごと吹き飛んだ窓からクルミの樹へ向けて投げた。
ブンッブンッブンッ!
ザッザッ!!
サファイヤの剣は勢いよく回転すると炎を切り裂く様に窓からクルミの樹へ向け空を舞った。
セルジオは左手を胸に置き祈った。
『かかってくれ!
クルミの幹へかかってくれ!』
ガサッ!!
ファサッ!
樹木の枝にかかったような音がした。しかし、炎の勢いが強く外の様子はわからない。
傍にいるであろうオーロラに息も絶え絶えに問いかける。
「オー・・・・ロ・・・・ラ・・・・
オーロラ・・・つ・・・・剣・・・・は・・・・」
オーロラはセルジオの言葉を繋いだ。
『セルジオ、大丈夫よ。
サファイヤの剣はクルミの幹が受け取ったわ。
安心して、大丈夫よ』
セルジオはふぅと一つ吐息を落とすと優しく微笑み頷いた。
セルジオは心の中でエリオスへ言葉を届ける様に願った。
『エリオス!エリオスっ!
万が一になった。すまぬっ!
私は戻れぬっ!
後は・・・・後を頼むぞ。
シュタイン王国を!
セルジオ騎士団を!頼むっ!』
左手を胸にあてる。幼い頃、守護の首飾りだと月の雫を授けられてから身に付いている仕草だった。
セルジオははっとする。アンに守りになるからと月の雫の首飾りを託したことを思い出した。
『アンに月の雫を託してよかった。
失わずに済む。
我らの我ら4人の守護の首飾りだからなっ・・・・
よかった』
セルジオは身体を支えていることがやっとの状態だった。
最後の力を振り絞る。
ブワンッ!!
金色の光の珠の中で青白い炎がセルジオの身体から湧きたった。大きく息を吸うとオーロラへ語りかける。
「オーロラ・・・・
そなたは無事か?北戦域で無事なのか?」
『私は無事よ。安心して』
オーロラが耳元で囁くその声に業火の中で安らぎを感じた。
『優しい騎士様ね』
オーロラと初めて会った時の言葉が胸の奥で響く。
「オーロラ、
私はそなたに会えて変わった。
心を持たない青き血が流れるコマンドールが
心を持つ事ができた。礼を申す。そして・・・・」
セルジオは胸からこみ上げるものに言葉をつまらせた。一呼吸置く。
「・・・ずっと・・・・
100有余年前から・・・・ずっと・・・・
初代様の御世からずっと・・・・
愛している・・・・」
伝えられずにいた言葉を放った。
オーロラの声がそっと耳元に届く。
『ずっと、ずっと、
セルジオの想いは伝わっていたわ。
ありがとう』
セルジオは大きく息を吐いた。幸せそうな微笑みを宙へ向ける。
「ありがとう・・・・か・・・・
オーロラっ!ここまでだっ、
来世で会おうぞ!」
姿なく傍にいるオーロラに愛おし気な眼差しを向け、力強く言う。
腰に携えている蒼玉の短剣に左手を伸ばした。
『私はオーロラの笑顔が愛おしかった。
時が許すならずっと見ていたかった。
ただ、それだけでいい・・・・
争いのない世で・・・・
オーロラが願った・・・・
争いのない世で・・・・』
セルジオの頬を涙が伝う。
蒼玉の短剣を手に取るとじっと見つめた。
蒼玉短剣はセルジオが生まれ落ちた時からの師の忘れ形見だった。
『バルド・・・・わが師よ。最後を共に・・・・感謝申しますっ!』
蒼玉の短剣を逆手に持つ。
グッッ!
ズハッ!
左喉へ突き刺すとそのまま後ろへ喉を切り裂いた。
ブシュッッッ!
金色の光の珠の中にセルジオの喉から吹き出す血液が綺麗な放射線を描き広がった。
オーロラはセルジオの最後を看取るとぽつりと呟いた。
『セルジオ、
独りではないわ。
旅立つまで、天に召される時は独りではないわ。
エリオスと私とで見送るわ。
安心して・・・・」
「そして、来世も必ず会えるわ。
会えばひと目であなただとわかるわ。
あなたも私だとわかるわ。
だから、ほんの少しの時を離れるだけ・・・・』
ボワンッ!
オーロラは金色の光の珠の中を真紅の炎で満たすとセルジオの身体を跡形もなく焼き尽くした。
最初のコメントを投稿しよう!