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夜道をドライブしていると、助手席の加奈子の携帯が鳴った。画面を一瞥すると、「チッ」と舌打ちして、何もせずにバッグに放り込む。
暫くすると、また携帯が鳴る。しぶしぶと言った感じで携帯を出し、画面を一瞥すると、そのままバッグに押し込んだ。
「出なくていいの?」
ハンドル片手に声をかけると
「うるさいわね!放っといてよ!」
逆切れされた。
暫く走っていると、また鳴った。さっきと同じように携帯を取り出して、画面を一瞥するとバッグに乱暴に押し込んだ。
「本当に出なくていいの?」
「だから、放っといてって言ってんでしょ!ちゃんと運転に集中してよ!こんな時に事故起こしたらどうすんのよ!バカ!」
ヒステリックにまくし立てられ、こっちも不愉快になり黙り込む。
暫く無言のドライブが続くと、急に話かけてきた。
「……あの、ごめんね、リョウ君。ナーバスになっちゃって。やっぱり、あたしリョウ君いないと駄目なの。ごめんね。本当にごめんね……だからあたしのこと嫌いにならないでね」
もはや半泣きになりながら、懇願するように俺の肩に手を回してくる。
「ならないよ」
運転しながら片頬に笑顔を浮かべてやると、少し落ち着いたらしい。
「ありがと、リョウ君。あの、何だかあたし、ちょっと気持ちが悪くなっちゃって……」
確かに顔色も青白く、いかにも気分悪そうに顔をしかめている。こんな所でゲロでも吐かれたら、たまったもんじゃない。
「もう、結構走ったし、そこで一旦とめよう。どうせ誰もいないし」
「うん、有難う。ちょっと待っててね」
闇の中に車を停めると、慌ててドアを開けて走り出していった。暗闇の中でゲーゲー吐く声が聞こえてくる。
加奈子が助手席に放り出していったバッグを何気なく持ち上げた拍子に携帯がこぼれ出る。画面に着信表示が並んでいる。
「ユイ」
「ユイ」
「ユイ」
「ユイ」
「ユイ」
「ユイ」
俺はため息を吐くと、携帯をバッグに戻す。思ったとおりだ。
ああ、確かにこぶ付き女は嫌だと言ったのは俺だよ。誰だってそうだろう。でも、だからって手前の娘を殺せなんて言った覚えは無いぞ。誰がそんなこと頼んだよ。まったく後先考えない馬鹿女だぜ。しかも、いざ殺したら狼狽えまくって、どうしよう、リョウ君何とかしてよぉ、だもんな。結局こんな真夜中に引っ張り出されて、死体遺棄の片棒を担がされる羽目になったわけだ。本当、やってらんねえぜ。
そりゃ、電話には出られないだろうさ。すぐ真後ろのトランクの中に死体になって収まっている筈の娘からの着信なんてな。俺だって怖いさ。なんで着拒にしないんだろう。あんな女でも、どこかで中途半端な罪の意識があって変な未練があるのだろうか。それとも、完全に連絡を絶っちまうと、今度は何か別のことが起きそうで怖いのかな。とにかく、何かあるとすぐに感情的になるし、今後も秘密を守り通すことなんか出来っこないだろう。まったく、とんだ疫病神だぜ。
「ごめん、もう大丈夫」
口元を押さえながら加奈子が戻って来た。
「じゃ、行こうか」
そう、もう俺の腹は決まっている。いい場所が見つかったら、大きめに穴を掘って……親子仲良く……。
[了]
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