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私たちの関係が変わったのは祐介が原因の一つだった。
祐介は私が派遣された会社の社員であり、初めの頃は教育係として私に一連の業務を教えてくれた。年が近いこともあり、すぐに打ち解けることができた。それに加え、彼の何事に対しても適度に力を抜いているスタンスに居心地の良さを感じたのも事実であった。本当にそれ以上でもそれ以下でもない。当たり前のことだけれど、手を握ったこともないし、やましいことは何もない。
私は誠也と付き合うようになってからも祐介に会っていた。このことが誠也に不信感を抱かせるきっかけになった。祐介とは誠也と会う予定がない時は仕事帰りにご飯を食べたり、飲みに行ったりする仲だ。それは誠也と付き合う前から続いていた。誠也は自分から意思表示をすることは少なかった。祐介のことを職場の先輩として会話に登場させても、特に嫌がる素振りは見受けられなかった。だから、私は誠也と過ごしている時もメールが来たら返信していたし、祐介とご飯に行く時はその報告も逐一していた。
以前一度だけ聞かれたことがあった。
「祐介さんとは何もないの?」
一緒に私の部屋で過ごしている時、誠也は尋ねてきた。
「何にもないよ」
「そっか」
誠也との会話はそこで終わった。彼は意を決してその質問をしてきたはずだ。でも、私はそういったことについては無頓着だった。
誠也の気持ちが私から離れた今だからこそ分かる。彼が最近仲良くしている女の子がいたら気になるし、正直いい気はしないだろう。どうせ誠也は異性に言い寄られるようなことはないからと思って、私は安心しきっていたのかもしれない。でも、いざ離れてみると誠也は私以外の女の子にとっても魅力的だったらしい。逆に見た目が若いだけで、中身もないし、性格も良くない私は一人になった。
初めに別れを切り出されたのはその質問をされた三ヶ月後だった。
「話があって」
いつものように駅で待ち合わせ、スーパーに寄って買い物をし、部屋に着いて誠也にもたれかかった。
「何?」
誠也は最近就活が始まっていたので、その相談だろうかと思った。今日も日中はどこかの会社の説明会に行き、一旦家で着替えてから向かってきたらしい。確か、SEだかプログラマーだか、IT関係の仕事だと言っていた気がする。誠也は私からそっと距離を取った。
「別れたいんだ」
そう私に伝えた時の誠也は、まだ私をまっすぐに見ていた。
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