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「私別れるかもしれない」
「別れるってあの根暗そうな彼氏と?」
祐介は全く興味がないようで、私の方は見ずに煙草を吸いながらひたすらスマホゲームをしている。近頃、健康増進法やら煙草税の引き上げやらの影響で喫煙者は大幅に減り、会社の喫煙所には私と祐介しかいなかった。
「根暗かは分からないけど、そう」
「なんで?」
「いろいろ忙しいんだって。それで私に寂しい思いさせるからって」
「ふーん」
「私は認めてないけど」
二人しかいない喫煙所では換気扇の音が嫌に耳についた。祐介の煙草の煙が私の方に流れてきて目に染みた。私は化粧が落ちないように目元をそっと押さえた。
「まあ、建前だろうね」
「建前?ほんとは忙しくないってこと?」
祐介はゲームの画面を睨みつけながら、「ああ、クソ」と呟いた。左手に挟んでいる煙草の灰が長くなり、落ちそうになっていた。
「忙しいかどうかは知らんけど。忙しいだけなら別に別れたいとまではいかないだろ。知らんけど」
祐介は話している時、「知らんけど」をよく使う。こっちは真剣に相談しているのに、「知らんけど」で片づけられるのは真面目に話を聞いてもらえていないような気持ちになる。誠也はそのような投げやりな言葉は使わない。
「じゃあ、なんで、急に別れたいってなるの?」
「冷めたんじゃないの」
一段落したのか、祐介は顔を上げやっと私と目を合わせた。
「急に?」
「だから知らんて」と祐介は言い、ゲームを再開する。
「もう祐介には相談しない。先に戻ってるよ」
去り際ずいぶん遅れてから、「おお」とだけ返答があった。
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