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「お兄様っ!」
思わず駆け出していた。
とても優しく、とても優秀で、そしてとても好奇心旺盛な兄が黙って見ているはずなどないことは、少し考えれば分かったはずなのに。
セイロン公爵家当主である父も、数年前に儚くなってしまった母も、半年前に隣国の皇太子に見初められて嫁入りした姉も、次期当主であるサイラスお兄様も。
家族は皆、こんな出来損ないで醜い私を、とても優しく、大切にしてくれていた。
使用人も皆、優しくて親切で。
このお屋敷の中でだけ、私はとても幸福だ。
そんな中でもお兄様は昔から特別に私を可愛がってくれている。
私にとって、とても大切な家族。
未知のものに対して興味を抱くのは分かるけれど、あれほど前に出ていては危険である。
自分とは違い、お兄様はこのセイロン公爵家になくてはならない存在なのだ。
お願いだから、お兄様が無事でおられますように。
そう祈りながらお兄様のもとへと急いで駆けていく。
普段大人しく淑女として完璧な所作を身に付けているセレンティーヌが、スカートを捲し上げて走る姿などあり得ないことではあるが。
階段をかけ下り、広い玄関を飛び出し、ぐるりと屋敷の裏側へ回り込む。
普段であれば美しく咲く花々に目を向けるところだが、今はそれどころではない。
兄の姿を見付け、急ぎ駆け寄る。
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