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両手で挟むようにペシッと頬を叩き、気合いを入れる。
「よし! 明日から頑張るぞ!」
拳を握りながらザバッと可愛い猫脚のバスタブから出ると、体を拭いてデカTを着る。
3LのTシャツは、ダボダボの膝丈ワンピースのようで、とても楽チンだ。
気に入っているので、洗い替えで同じものを三枚持っている。
ソファーへと腰を下ろし、髪を丁寧にタオルで挟みポンポン叩いて水分をとる。
ドライヤーがないのが辛いところではあるけれど、こればかりは仕方がないと諦めた。
水滴が垂れない程度に髪を乾かし、ソファーから立派な鏡台へと移動する。
鏡の縁には美しく繊細な彫刻が施されており、それだけでもかなりお高いことが窺える。
そしてその鏡には、のっぺり平凡顔の女性が映し出されていた。
……メイクを落とした麻里である。
「我ながら、ホント詐欺級のメイクよね」
小さく笑いながら、旅行用バッグの中から化粧水と乳液、メイク用品にヘアブラシなどを取り出して鏡台の上に並べていく。
化粧水をたっぷり肌に入れこみ、乳液で蓋をしていく。
それが終われば再び髪を乾かし始める。
生乾きで寝てしまうと、朝起きた時にものすごい ことになってしまうのだから、仕方がない。
この世界には魔法はあれど、電気はないのだ。
麻里がもっているヘアアイロンなどは全て使えない。
となれば、だ。
タオルドライ一択となってしまう。
残念ながら、旅行バッグの中に入ったままのドライヤーとヘアアイロンとホットカーラーは、こちらの世界では日の目を見ることはないだろう。
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