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「お兄様!」
勢い余ってサイラスの背中に突進してしまった。
サイラスは驚いたように振り返り、
「セレン!? ここは危ないから、下がっておいで!」
慌ててセレンティーヌを安全な場所へ行かせようとする。
「いいえ、お兄様も一緒でなければ、私もここを離れません!」
セレンティーヌは一歩も退かない。
警備の者達は皆武器を片手に、辺りは緊張に包まれている。
そんな中、ガチャッという音と共に中から女性が出て来たかと思うと、力なく蹲ってしまった。
「あ~~~、死んだかと思った……。ダメだ、腰抜けた」
女性は何やらブツブツと呟いている。
警備の者が「貴様は何者だ!」と警戒しながら問えば、女性は俯いていた顔をパッと上げて、今初めて包囲されていることに気がつきましたというように、驚きで大きな目を更に見開いた。
「え? 何者? って、あれ? 暗っ! ここどこ? 城? え? 何で? 高速走ってたはずじゃ……」
何やらパニックを起こしているようだが、警備の者たちはそんな女性に対して更に警戒を強めた様子。
けれど私は、別の意味で驚いていた。
この女性は、なんて美しいのだろう。
真っ黒な前下がりのボブヘアがとても似合っている女性は、少しつり上がり気味の大きな猫目がとても印象的な、とにかく美しい顔立ちをされていた。
隣国の皇太子に見初められて嫁入りしたお姉様もサイラスお兄様も、わたくしと違いとても美しい容姿をしているけれど、それ以上に目の前のこの女性は美しかった。
それはもう、女神様ではないかと思われるほどに。
……この出会いがわたくしの運命を大きく変えることに繋がることなど、この時は思ってもみなかったのです。
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