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「はぁ!? 何これ? どうなってるの!?」
後部座席に置かれたそれらを目にし、麻里は困惑していた。
なぜならそこにあったのは、旅行バッグと大量のコスメシリーズの入った段ボールなどで。
それらは昨日、セレンティーヌ達を乗せるために、車からおろして部屋に運んでもらったはずのものだった。
一瞬、誰かが部屋から車に戻したのか? とも思ったけれど、そんな面倒なことをするとは思えないし、何よりそれは不可能だ。
車はしっかりと鍵ロックされていたし、そもそもこの邸には、というかこの世界にはワイヤレスキーの開け方を知っている人はいないはずだ。
なぜなら、麻里の前に迷い人がこの世界に来たのは三十年近く前のことで、その頃にはワイヤレスキーはまだ存在していなかった。
キーはバッグの中から一度も出していないし誰にも見せていないので、この世界でアレが車のキーであることを知っているのは、麻里だけである。
「どうしたんだい? 何か問題でも?」
サイラスが声を掛けてくるが、混乱している今は彼に説明するのも億劫というか、申し訳ないが少し放っておいてほしいと思ってしまう。
だからつい、
「……いいえ、何でもないわ」
などと誤魔化すように答えたのだけれど。
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