第三章 賭け

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「ねぇ、セレン。お手洗いに行きたいんだけど、どこにあるのかな?」 「そちらの通路をまっすぐ進んでいった右側にありますわ。わたくしも一緒に参りましょうか?」 「ううん、一人で大丈夫。すぐ戻るから、ここにいてね」  はしたなくない程度の早歩きでお手洗いへと向かう。  途中で声を掛けようとしてくる子息たちをサラリと躱し、お手洗いへ一直線。  ホールにはあれだけの人がいるにもかかわらず、お手洗いには誰もいなかった。  きっと他の令嬢達は、コルセットが苦しくて出来るだけ飲食はしないようにしているのかもしれない、なんて勝手に考えて一人納得する。  スッキリしてお手洗いからホールへ戻ると、セレンティーヌがいるだろう辺りに数人の令嬢と子息がいるのが目に入った。  セレンの知り合いかな? なんて思って近付く麻里の耳が、信じられない言葉を拾う。 「これ以上醜く太って、一体何を目指すつもりだい?」 「まあ、そんな言い方は失礼ですわ。きっと社交界一の巨体を目指していらっしゃるのですわ。ふふふ」 「あら、それはもうすでに叶えられているじゃありませんか」  複数の子息令嬢達がセレンティーヌを周囲の目から隠すように立ち、寄って集って侮辱の言葉を吐いていたのだ。  ……ほぉ、随分と陰湿なことをしてくれるじゃないか。麻里の握った扇がミシミシと悲鳴にも似た音を立てて軋んでいる。  麻里は片方の口の端を上げて無理やり笑顔のような表情を作り、声を掛けた。   「まあ、皆様。寄って集って何を仰るかと思えば」  ーーコイツら、絶対に許さない。
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