第三章 賭け

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 しばらくして戻ってきた麻里は、麻里ではなかった。  いや、麻里ではあるのだが、メイクを落としてきたであろう顔は決して醜いわけではないがかなりの地味顔で、先ほどの半分以下の大きさのつぶらな瞳に低い鼻。  それらはとてもではないが同一人物には見えなかった。  着ているドレスと体型や髪型などで辛うじて麻里だろうと判別しているが、これで着替えられたりしたら、誰にも分からないだろうレベルに違う。 「え? マリ……様?」  驚きに細い目を少しだけ大きくしているセレンティーヌと、驚き過ぎて固まっているサイラス。 「さっきあなたは私に何が分かるって言ったわよね?」 「あ、あの……」  セレンティーヌの視線が激しく泳いでいる。 「言・っ・た・わ・よ・ね?」 「は、はいぃ! 言いました!」  麻里はそうだろうと言いたげにウンウンと大きく頷くと、鋭い瞳を向けて一気に捲し立てた。 「あなたこそ、一体私の何が分かるっていうの? 私だってね、子どもの頃に散々地味顔だの何だのとバカにされていじめられたわ。悔しかったし、悲しかったわよ。だけど、そんな奴らの言葉で内に籠って自分の世界を狭めるなんてしたくなかったし、何なら見返してやろうと思った。だから、少しでも見栄えよくするためにメイクを始めたのよ。かなりの失敗もしたわ。それでも止めようと思わなかった。それに合わせて、少しでもスタイルを良く見せるためにダイエットも始めたの。私の家系は太りやすい家系だったから、痩せるのも体型を維持するのもとっても大変でね。……あなたが言った『誰よりも美しい容姿』は、私の血の滲むような努力の末に手に入れたものよ。それを『貴女には分からない』ですって? 努力すらせずに殻にこもっていただけのあなたに、そんなことを言われるすじあいはないわ!!」  セレンティーヌとサイラスは、胸の前で腕を組んでフンッとふんぞり返る麻里に何も言えなかった。  彼女の美しさは持って生まれたものだと思っていたし、まさかそんな努力によって作られたものだとは思ってもみなかったのだから。
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