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序章
カタリヌ王国王宮にほど近い小さな城と言えそうなこのお屋敷は、三大公爵家の一つであるセイロン公爵邸。
白く美しい建物に、広い庭には季節によって色とりどりの花々が咲き乱れ、それこそ一年中目を楽しませてくれると評判である。
ある日の夜、そんなセイロン公爵邸の庭で聞いたこともないようなキキキィィィィ……といった甲高い大きな音が響き渡った。
「今の音は何ですの!?」
セイロン公爵の末の娘であるセレンティーヌが震えながらそう呟けば、侍女のレイラは「確認します!」と言って、庭を確認するために部屋の窓からテラスへと出て行ったかと思えば、直ぐに戻って来た。
「お嬢様っ! 見たこともない大きな光る馬車のような物が庭にありますが、馬がおりません!」
「馬がいなくて、どうして馬車が走るの?」
「それは私に聞かれても分かりかねます」
「……」
「お嬢様は危険ですのでお部屋でお待ちください。警備の者達も集まって来ておりますから、少し確認して参ります」
そう言ってレイラは部屋を出て行った。
部屋に残されたセレンティーヌは恐る恐る窓から庭を覗けば、この角度では馬車のようなものは見えないが、何やら眩しい光と警備の者達に混じって長男のサイラスの姿が見えた気がした。
慌ててテラスへ出て確認すれば、確かにレイラの言った通り、見たこともない大きな光りを放つ馬車のようなものがあるが、馬の姿がない。
それをとり囲むようにして、警備の者達がジリジリとその囲を段々小さくしていく中に混じって、サイラスがいたのだ。
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