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生意気な態度を取れば怒ってさっさと追い返すかと思ったが、男は「そうか」と言って笑っている。
「何がおかしいの? 用がないなら帰るけど」
「いや、用ならある。魚料理の味を確かめに行こう」
男はそう言うなりサラの腕をつかんで立ち上がった。
「ちょっと、離してよ!」
「昼飯をご馳走してやる。まだ他に聞きたいこともある。俺はグレンだ。君の名前はサラだろ?」
思い切り振り払えないのはドレスが破れては困るから。そんな言い訳を自分にしながらサラは男に連れられるままにホテルのレストランへ足を踏み入れた。
真っ白なテーブルクロスの上にはテーブル毎に違う花が飾られている。
夜にはさぞ美しく輝くだろうガラスのシャンデリア。
奏でられる弦楽四重奏の心地よい調べ。
サラはグレンに対する怒りも気恥しさもいっぺんに飛んで行って緊張に置き換わるのを感じた。
――こんなところで食事するの? 絶対味なんて分からないわ。
そう思っていたのも最初だけで、運ばれてくる料理を口にした途端、あまりの美味しさに満面の笑みがこぼれた。
「マナーなんか気にしなくていい」
グレンはそう言って昼間から酒を飲み、美味しそうに食べるサラを見ては笑っていた。
とにかくよく笑う。それが男に対するサラの印象だった。貴族なんて変態か嫌味な奴しかいないと思っていた。サラがグレンにそう言ってもやっぱり笑っている。
――貴族だと思ったけど違うのかしら。
金持ちなことには違いない。
「聞きたいことって何?」
十分にお腹が満たされたところでサラが切り出すと、グレンは酒のせいか一層甘く見える目でサラに微笑みかけた。
「窃盗事件を解決に導いた占いをここで見せて欲しい」
「やっぱり私のこと疑ってるのね」
「盗まれた宝飾品の中で発見されていない物がひとつだけある。それを見つけたい」
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