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音が遠ざかっていく。やがて聞こえてきたのは懐かしい友達の声だった。
「可愛い! ねぇ、それ私にちょうだい!」
「ダメ、これは絶対ダメ」
「何よ、サラのケチ! もう一緒に遊ばないから」
仲の良かった友達とのたった一回のけんかの後、サラは二度とその子と一緒に遊ぶことはなかった。お互い気まずい関係のままサラが引っ越してしまったからだ。
――彼女の欲しがった物が別の物なら良かったのに。よりによって絶対にあげることのできない母の手鏡を欲しがるなんて。
忘れかけていた古い記憶を呼び覚まされて、サラは胸が痛んだ。
リリアの気持ちとサラの古い記憶が共鳴していく。
サラはリリアの中にいた。目の前には灰色の髪の男の子がいた。
「オルゴールはダメ。これはママからもらった大事な物だから」
「リリアの大事にしている物が欲しい。そのオルゴールなら……」
「ダメ、絶対。これはダメ」
目の前にいる男の子はあの時のサラの友達のように、リリアの大事なオルゴールに心惹かれてしまったのだ。
寂しい時、辛い時、何度も取り出して眺めた手鏡に、サラは慰められ助けられてきた。
リリアにとってのオルゴールも同じだった。
友達が嫌いなわけじゃない。他の物ならなんだってあげる。でもそれだけは駄目なのだ。
後になって仲違いしたことをどんなに後悔するとしても、それだけはあげられない。
――どうして分かってくれないの?
そんな思いと同時に、仲違いせずに済む方法があったはずだと今なら分かる。
はっと目を開けると、グレンの顔が目の前にあった。心配そうに見つめる顔がぼやけて見える。
不意に頬を撫でられてサラはビクリと肩を震わせた。
「急に泣き出すから驚くじゃないか」
グレンはそう言って指の背でサラの涙を拭った。
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