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ホテルの中庭、どんよりとした曇り空の下で支配人の娘であるリリアが不安そうにサラを見上げていた。
ガーデンテーブルにはパラソルが差してあり、縁飾りが風にはためいている。
三人はそれぞれ青銅製のチェアに座っており、灰色の髪の男の子はどこにもいなかった。
テーブルに置かれた小石はリリアが並べたのか円を描くように並べられている。
「すみません、何でもないんです」
サラは手の甲で頬を拭いあわてて笑顔を取り繕った。
「何でもなくて急に泣き出すのか」
グレンは眉をひそめサラの顔をのぞき込む。
「占いはそんなに負担になるのか」
重ねて問われサラは目を見張った。グレンはサラの体を心配してくれているようだった。
「そうじゃなくて、ちょっと昔のことを思い出してしまっただけです。そんなにまじまじと見ないでください」
フィが目の周りに施してくれた化粧が涙で崩れてしまったことだろう。
サラはグレンから顔を背け、バッグからハンカチを取り出そうとして思い出した。占いの石しか入らなかったため、ハンカチを持って来ていなかった。
すっと差し出された高級そうなハンカチをありがたく受け取ったものの、汚してしまいそうで使うに使えない。
「それで足りなければ胸を貸そうか」
両腕を広げるグレンにサラは思わず吹き出した。
「笑われるところじゃないと思うんだが」
グレンは肩をすくめると、立ち上がってリリアの所へ行った。その体を軽々抱き上げると、
「占いが終わったならリリアを部屋まで送り届けてくるよ」
そう言ってリリアを片腕に乗せ歩いていく。その背中を見送り、サラは手元のハンカチに目を落とした。
不思議な感覚だった。まるでリリアと自分がぴたりと重なるように気持ちが共鳴するのが分かった。
そしてリリアのオルゴールが今どこにあるのか、その答えが分かったような気がした。
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