灰色の少年

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サラはグレンが訪ねて来ると言っていたのを思い出し、三階の共同部屋へは行かず、占い部屋の中で待っていた。 占い部屋は元々一階のステージを見るための客席の一部を垂布で仕切っただけの場所だ。ステージを見下ろせる側は通路になっていて、座長はそこを行き来する。 客は反対側からやってくる。そのどちらにも分厚い布が幾重にも垂れ下がっている。 机を片隅に寄せ、部屋の中央に丸い敷物を広げた。サラが数ヶ月かけて刺繍を施した敷物は魔法陣になっている。 魔法陣とは言っても少し集中力を高める程度のものだ。気力と体力の回復にも役立つため、疲れた時はその上に横になって瞑想をする。 サラは薄いゆったりとした飾り気のないワンピースを纏い、幾つかの蝋燭の灯りだけの薄暗い部屋で横になった。 今日一日の出来事を順に思い出していくと、グレンの柔らかな目元が一番に脳裏に浮かんだ。 ――素敵な人。 年頃の少女なら一度は憧れを抱くだろう。サラもそのうちの一人だ。決して本気になどなってはいけない相手だ。そう自分に言い聞かせながら、水盤に映ったグレンの苦しげな表情を思い出してサラもまた顔を曇らせていた。 いつの間にかうとうとしていたのか、物音で目を覚ますとそこにグレンがいた。 「あ、……ごめんなさい。気が付かなくて」 「いや、こちらこそ起こしてしまってすまない」 慌てて体を起こそうとすると、グレンはその様子を見ながらサラの前に胡座をかいて座った。 「椅子を」 「いや、このままでいい」 グレンは部屋の中を見回し「暗いな」と呟いた。 そう言われても蝋燭の灯りしかないのでどうしようもない。 むしろ化粧を落としたサラには多少暗い方が好都合だった。 「一緒に夜食を食べながら話そう」 グレンはそう言うと紙袋を差し出した。中にはサンドイッチが入っていた。 「サルマンホテルのシェフに頼んで作ってもらったんだ。これなら幸せな気分のまま眠れるだろ?」
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