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グレンの異変
「駄目だわ。このままじゃアレンが殺されてしまう」
思った以上に悪い未来にサラは苦しい息を吐き出した。それ以上の占いは不可能だった。
水盤から目を上げてグレンを見たサラは、グレンの様子がおかしいことに気付いた。
何かを我慢しているようにきつく寄せられた眉、噛み締めた唇。
右手は胸の前を交差するように左肩を強く掴んでいる。
「どうかされましたか、グレンさん」
サラがグレンの方へ無意識に伸ばした手の先から赤い血が一滴滴り落ちた。
「……近、寄るな」
「えっ」
サラは慌てて手を引いたけれど、何故急にそんなことを言われるのかが分からない。
その時ふっと蝋燭の火がひとつ消えた。
グレンが動いたのだ。
サラはグレンの両手に肩を押さえられ、床に倒れた。
熱い息を吐くグレンの顔がすぐ目の前にあった。
「グレンさん!」
グレンの目が蝋燭の火を映しているせいか金色に輝いていた。
うっすらと開いた唇から白い犬歯がのぞき、サラの肩にグレンの爪が食い込む。
明らかに様子がおかしい。酒に酔ったように理性を失いかけているように見えた。
「グレンさん、しっかりしてください」
サラは動かずに声だけでグレンに訴える。動きたくても動けはしなかったが、逃げようとすれば余計にグレンを刺激しそうに思えた。
グレンの顔が徐々に近付いてくる。
サラはその顔から目が離せなかった。
顔の半分は影になってよく見えない。その両目は狂おしいほどの渇きを訴えているようだった。
サラは背筋が震え、目の端から涙がこぼれ落ちた。
グレンの唇がサラの首筋に触れた瞬間、サラは思い切り顔を背けていた。
グレンの目にはサラの白い首筋が顕になる。
グレンがぐっと息を詰める苦しげな声がサラのすぐ耳元で聞こえたかと思うと、サラに覆い被さるように押さえつけていた手が離れた。
グレンがどさりと仰向けになってサラの横に倒れた。
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