グレンの異変

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サラは安堵の息を吐き出し、グレンをうかがった。 まるで何か薬に当てられたかのようだった。グレンはそれを必死に押さえ込もうとしているように見えた。 サラが床に両手をついてグレンを覗き込むと、グレンの手がサラの手首を再び強い力で握りしめた。 グレンは半身を起こしサラの手首を引き寄せ、その指先に唇を当てた。 サラの指先から流れる血を熱い舌で舐めとると、サラの体を抱き寄せた。 指先が熱い。心臓が引き絞られるような気がしてサラはぎゅっと目を閉じた。 恐ろしい。恐ろしくてたまらないのに、サラは心のどこかでその先を望んでいた。グレンに抱きしめられ、理性を失うほど求められていると思えば、何年もの孤独が癒されるような気がした。 「君の、……君の血が欲しい」 呻くようなグレンの声に、サラははっとして必死にその体を引き剥がそうと腕を突っ張った。 「駄目です!」 すると今度はグレンの目が捨てられた仔犬のような悲しげな表情を浮かべた。 サラの両手を包み込むように握り唇を押し当てる。 「駄目!」 サラが大声でそう叫ぶと、グレンは床に落ちていたナイフを手にとり、サラが止める間もなくそれを自らの太腿に突き刺した。 「……は、なれて、くれ」 グレンは呻きながらそう言ってサラを遠ざけた。 サラは震える足にどうにか力を入れて立ち上がり、部屋の隅に逃れた。 「もしかして、あなた吸血鬼?」 サラが問いかけると、グレンははっと短く笑って言った。 「まさか! 君こそ紅茶に何か入れたんじゃ……」 「そんなことするわけないでしょ!」 「悪いけど、何か止血するものを貸してくれないか。君の傷の手当の後でいいから」 グレンの方が余程深い傷のくせにそんなことを言う。サラは呆れながら戸棚の中からベルトとスカーフを取り出した。 「近付いても大丈夫?」 「いや、そこから投げてくれ」 「お願いだから変身しないで」 「変身て……」 サラは傷用のテープを素早く切り取って自分の指に巻く。それからグレンに歩み寄り慎重に手を伸ばした。
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