グレンの異変

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目が覚めると外の雨音に包まれていた。 ぐっすり眠って頭はすっきりとしている。指先の傷口も、足の裏の傷も、鞭で打たれた痕もすべてなかったことのように消えていた。 普通では有り得ないほどの回復力も母から受け継いだものだ。 サラは時折自分が本当に魔女なのではないかと思う。けれど、魔女はとっくの昔にいなくなったと言われている。人狼や吸血鬼はまだひっそりと生き残っているが、魔法の類いは失われ、少しの不思議な力といくつかの知恵が受け継がれているだけだった。 サラの遠い先祖は魔女だったのだろう。ただ、それだけだと思う。 グレンの昨夜の様子を思い返すと、グレンが吸血鬼だというより、魔法陣の上で占いをしたことでサラの血がグレンに何らかの影響を与えてしまったように思えた。 昨日のことでグレンを責める気持ちは起きない。けれど、あんな風に男性に抱きしめられたのは初めてのことで、思い出せば思い出すほど落ち着かない気持ちになった。意識するまいと思ってみても、グレンの唇が触れた指先につい意識が向いてしまう。 サラは身支度のためにベッドから出ると顔を洗って考えた。外は雨だ。それでももう一度あの林に行ってアレンに会わなければいけない。 なるべく動きやすい服装をと考えて思い当たったのは、奇術ショーでナイフ投げをやっているハシリだった。 ハシリはサラよりひとつ年下で、サラと背丈が近い。サラのことを慕っており、服を借りるくらいは造作もないことだろう。 早朝からハシリはナイフ投げの練習に励んでいた。 手元でクルクルと回るナイフにサラはいつも見とれてしまう。ハシリの投げたナイフは小さな的に円を描くように綺麗に刺さっている。
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