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「おはよう、ハシリ」
「サラ! 昨夜は遅くまでお客さんだったみたいだけど、大丈夫?」
サラが声をかけるとハシリは仔犬のように駆け寄ってきてサラにしがみつかんばかりだ。
「大丈夫よ。ちょっとお願いがあるんだけど」
「なんでも言ってよ。サラの為なら何だってするよ僕!」
ハシリの色の薄い髪や目が勢いのいい喋り方と相まって、まるで飛び回る妖精のようだとサラは思う。
「服を貸して欲しいの」
ハシリは目を丸くしながらもサラに服と雨具まで貸してくれた。
「僕も一緒に行くよ。雨の中そんな遠くまで行くなんて、ひとりじゃ危険だよ」
「心配しないで。昨日通ったところを歩くだけだから」
ハシリには昨日落し物をしたので探しに行くと言ってサラは奇術の館を出た。
座長には昨日の上客に今日も呼ばれていると言えば、すんなりと外出を許可してくれた。
館を出ると道の向かいに男が立っていた。グレンだ。
「ここで何をしているんです?」
思わず駆け寄ったサラに、グレンは傘を傾け爽やかな笑みを見せた。
「昨日の侘びがしたくて。それにしても見る度に雰囲気が変わるな」
「えっ……」
ハシリに借りた男物の服に長い髪は帽子に押し込めてある。変に思われたかと今更恥ずかしくなってサラは顔を背けた。
「今日は動きやすい格好をしてるだけです」
「どこかに行くのか?」
「アレンを探しに」
グレンは後ろに停めてあった車のドアを開け、サラに乗るように示した。
「一緒に行こう」
雨も降っている。車に乗せてもらえるのは助かる。それにグレンの足の傷も心配だった。
「昨夜は、……あれから何ともありませんでしたか?」
後部シートに並んで座ると、運転手は黙って車を走らせた。
「ああ。君は、よく眠れたか?」
「はい」
「そうか」
会話が途切れた。何か言わなくてはと思うものの何も浮かばない。
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