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「闘牛の勝敗はどうだ」
なかなか最後の質問に答えないサラに男が重ねて問うてくる。
背後では座長が鞭を強く握る音が聞こえる。
こういった質問は当たり外れが明確に分かる。それだけに下手にごまかすこともできない。
サラはナイフをもう一度指先に当てた。
あまり大きな傷を作りたくない。けれど鞭よりはマシだ。ちらりと男の表情をうかがえば、入ってきた時よりもその目が輝いているように見えた。
サラの占いに期待している。闘牛には金をかける。ここでサラの占いが当たれば男は大儲けをするが、外れれば金を返せと怒鳴り込んでくるかもしれない。
この男はそんなことをしそうには見えないが、今までの客はみなそうだった。
ピシリと鞭が鳴る。
失敗を許さないといわんばかりに無言の圧力をかけてくる座長には辟易する。
サラは一度目を閉じ心を落ち着かせようと努めた。
目を開いた時、サラの目に見えたのは男の苦しげな表情だった。
水盤から目を上げると男は涼しい顔でサラを見ている。
水盤の中の男は苦しげに眉根を寄せ、目をきつく閉じている。
果たしてこれはどういうことだろうか。
「もし、何か他にお悩みがあるのではありませんか」
サラがそう問いかけると、男は驚いたように眉をはね上げた。
「何故そう思うのだ」
「それは、……苦しげなお顔が見えるからです」
男はサラの言葉を聞くと無言で立ち上がった。
何も言わず出口へと足を向ける。
サラのふくらはぎをピシャリと鞭が打ち付けた。
「キャッ」
痛みに思わず声を上げ机に手をついた。水盤が揺れ水がこぼれる。
立ち去りかけていた男が足を止め、サラを振り返った。
助けてなど言えない。むしろさっさと出ていって欲しい。客が見ている間中、座長はサラを鞭打ち続けるのだから。
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