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座長の手がサラの髪を掴んで引っ張る。客に顔がよく見えるようにあえてそうしているのだ。そして机に体を押し付けると汚い言葉を浴びせながら何度も鞭を振り上げる。
サラは目を閉じて痛みをやり過ごそうと歯を食いしばった。けれど二度目の鞭は襲ってこない。
目の前には男の高級そうなシャツと、その形が男の鍛えられた腹筋を浮き彫りにしている様子だけが見えていた。
「女に鞭を振るうな」
「こ、これはお客様お見苦しいところをお見せし申し訳ありません。ですがこれは当店の決まりでして。お客様の御要望にお答えできない占い師には罰を与えるのが私の仕事なのです」
「要望には十分答えてくれた。罰は必要ない」
「ですが闘牛の勝敗が」
「客がいいと言っているんだ」
「それならば……」
座長は残念そうに鞭を持った手を下ろした。男は私を一瞥し、まるで自分が鞭に打たれたかのように痛そうに眉をしかめた。
「他の方法で占いは?」
男がサラに問うた。他の方法、水盤占い以外にも石で占う方法もあるにはある。あまり精度が良くはないがサラは頷いた。
「ならば後でサルマンホテルへ来てくれ。血はもう見たくない」
男はもうサラを見ることなく部屋を出ていった。
「男のクセに血に弱いだって? 呆れた優男だ」
座長の呟きに「あんたより百倍マシだけど」とサラは心の中で叫んだ。
まさか聞こえたわけではないだろうに、二の腕を鞭が走った。
叫びそうなのを堪えて歯を食いしばる。悲鳴を聞くのが好きな変態に聞かせるのはごめんだ。
「客を待たせるなよ」
男が置いていった袋にはぎっしりと銀貨が詰まっていたようで、座長はご機嫌で部屋を出ていった。
サラは大きなため息を吐いて乱れた髪をかきあげた。
さっきの客はかなり好みのタイプだった。いまだに胸がドキドキするほどに。
見下ろした水盤の中では男がやはり苦しげにもがいている。こんなことは初めてだった。闘牛の勝敗を占ったはずなのに、男の未来を占ってしまったのだろうか。
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