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サルマンホテル
ホテルに着くとすぐにラウンジにあの男の姿を見つけた。
明るい光の下で見ると一層その精悍さが際立って見えた。
特に着飾っているわけでもない。上等だけれどシンプルな白いシャツ。タイも結ばずボタンを三つも外している。
髪は無造作にかきあげただけで、紳士の間で人気のワックスで固めた七三分けにもしていない。
顔が良くなければただのだらしない格好に見えただろう。
――きっと何をしても様になるというのは彼のことね。
サラがそんなことを考えながら近付いて行くと、男が気がついて立ち上がり、サラに座るよう手振りで示した。
「お待たせしてしまいましたか」
サラが遠慮がちに問うと、男はソファに身を沈め大きなガラス窓の向こうに目をやった。
「天気が崩れるかどうか見ていたところだ」
サラの占いではこの時間はまだ雨は降らない。曇り空のせいでいつもより早く街灯に火が灯るが、降り始めるのはその頃だ。
「明るいうちは大丈夫ですよ」
そう答えるサラに、男はまたあの笑いを含んだ目を向けた。
サラはその目に胸がときめくのを感じる。フィは男の手が筋張っているのが好きだという。それと同じようにサラは優しい眼差しに弱い。周りにそんな風に嫌らしさを感じさせない男がいないせいかもしれない。
「君はここで起きた窃盗事件の捜査に協力してくれたそうだね」
「あなたは警察の方ですか?」
「まぁ、そんなところだ」
「私をここへ呼んだのは事件のことを聞くためですか?」
「興味はあるね。俺は占いなんて信じていない。君が犯人の仲間だったという方がまだ理解できる」
サラはみるみる気持ちが萎んでいくのを感じた。それと同時に苛立ちが沸き起こる。
――私が犯人の仲間ですって? しかも占い師に向かって占いを信じていないだなんて馬鹿にしてるのね!
「私は犯人ではありませんし、占いで事件の解決に協力したことは本当です」
「なら闘牛の勝敗は?」
「あんなに苦しそうな顔だったんだからきっと負けたに違いないわ」
サラは腕を組むと顔を背けてそう言い放った。どうせ何を言っても信じないのだろうから。
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