銀の獄

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俺は空飛ぶ円盤の牢獄で学んだよ。人生というものは不平等かつ理不尽なものなんだとね。俺たちは時を同じくして宇宙人に拐われながら、一方の俺は五十歳になるまで空飛ぶ円盤の牢獄に繋がれ、もう一方のおまえはその日のうちに解放されて何事もなかったかのように日常を取り戻したんだもんな。あれからおまえは中学高校大学と名門校に進学して国家公務員となって警察庁に入った。三十年近くも要領よく勤め上げて今では警視監か。いずれは警視総監になるんだろうな。すごいよ。うらやましいよ。おまけに俺たちと仲良しだった真由美ちゃんと結婚までしちゃうんだもんな。このこのこの! むっつりスケベ野郎! おまえもご存知のとおり、俺は真由美ちゃんのことが好きだった。でもおまえは真由美ちゃんにはいつも無関心で、そんな素振りはちっとも見せてなかったじゃないか。まあいいや。はっはっはっはっ。上手くやりやがってこの野郎。 子供は二人か。上が男の子で十九歳。下が女の子で十六歳。ふたりとも良い若者に育ってるみたいじゃないか。いいよなあ。俺には何もないよ。何しろ四十年間も空飛ぶ円盤の牢獄の中にいたんだぜ。俺には何もないよ。本当に何にもないんだ。おまえが羨ましいよ。あやかりたいぐらいだよ。一日でいいから俺と入れ代わってくれないかな。いやあ、でもそれは出来ない相談だよな。おまえは生まれ育った地球で頑張って今の地位を築き上げた。それに比べて、俺は……。空飛ぶ円盤の牢獄に繋がれていたんだ。俺には本当に何もない。何も持ってない俺に選手交代してくれと言われたって、それはちょいと無理な相談だよな。
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