銀の獄

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いや、よそう。悪かった。忘れてくれ。いきなりそんな重たいこと言われてもおまえにはどうしようもないよな。おまえを困らせるつもりはないよ。 話題を変えようか。 幸いなことに、空飛ぶ円盤には地球上のあらゆる言語で記された膨大な量の書物が置いてあったんだ。俺は人体実験のときを別にすればいつでも好きなときにそれらの書物を手にとって読むのが許されていた。俺は多いときには一日あたり五冊から十冊は読んだ。少ないときでも必ず一冊は読んだ。 俺は有り余る時間を活用して語学を学んだ。もちろん独学でね。日本語のほかに、英語、スペイン語、フランス語、中国語、ドイツ語、オランダ語の読み書きぐらいなら出来るようになった。小説だって古今東西あらゆる種類のものを一万冊は読んだ。 そういえば、空飛ぶ円盤の壁面はボタンひとつでいつでもスクリーンモニターになるんだ。壁や天井や床いっぱいに映し出される大宇宙は実に壮観だったよ。大気に邪魔されないからかな。遠くの細かい星までが実にクリアに見えるんだ。大宇宙に散らばる名前も知らない星雲の数々を眺めているときが俺の憩いであり安らぎだった。 そんなある日、宇宙をぼんやり眺めながら、俺はふと気づいたんだ。「俺たち地球人にとっての神とは宇宙そのものなんじゃないか」とね。
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