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囚われの身の俺がおまえ宛にこんな手紙を出せたのが不思議だというのかい? 宇宙にいながらどうやって手紙を投函すると思う? まさか「わからない」なんて情けないことは言わないよな。まさかだよな。なんといってもおまえは成績優秀な優等生の天才児なんだから。
自由の身になれたんだよ。四十年の歳月が過ぎた今、俺はついに空飛ぶ円盤から解放されたのさ。この手紙をおまえが書斎で読み終えるころには、俺はきっとカーテンの閉まった窓の外に立っているだろうよ。
さあ、大親友。勇気を出してカーテンを開けろ。外を見るんだ。四十年ぶりの懐かしい再会を果たそうじゃないか。
賢いおまえのことだ。予想はついてるだろうけど、俺は人体実験の副産物として、宇宙人から超能力を授けられたんだ。超能力だよ超能力。漠然としすぎてわからないから具体的に教えて欲しいってか? いいよ教えてやるよ。テレパシー、透視、未来予知、念働力ってところかな。
俺が最も得意とするのは念働力さ。念力といったほうがわかりやすいかな。そうだよ。俺は離れた場所から念じるだけでおまえの心肺を停止させることだって出来るんだぜ。そうさ。俺は復讐を遂げるために四十年ぶりに帰って来たのさ。おまえに引導を渡しに来たんだよ。ただし、念力を発動するのはおまえの今の姿をこの目にしっかり焼き付けてからだ。そうじゃないと俺の気が済まないからな。さあ、カーテンを開けろよ。大親友の俺に、懐かしいおまえの間抜けな顔を見せてくれよ。
安心しろよ。怖くないよ。ちっとも怖くないから。空飛ぶ円盤の銀色の牢獄で過ごした俺の四十年間に比べたら、おまえがこれから体験する数秒間なんて、なんにも怖くなんかないはずだよ。
なあ、おぼえてるか、あの良く晴れた夏の日の真っ赤な夕焼け空を。あの空の色はおまえが四十年後に流すだろう血の色を暗示した裏切りの赤だったのさ。おまえは裏切り者だ。俺は裏切り者を許さない。絶対に。
(了)
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