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11.帰還報告
「と、いうようなことがありました」
「そうなんだ」
狐乃音はお兄さんとの約束を守り、無事に帰ってきた。そして、何が起きたのかを報告していた。
「大変だったね」
「あはは」
正直なところ、とても心苦しい気持ちだ。
お兄さんへの報告は、だいぶマイルドなものになり、表現が正確だとは言い難かった。肝心なことを、だいぶ端折らざるを得なかったのだから。
(……刃物を持ったお姉さん達と、チャンバラをしましたとは、とても言えません)
そんなことを言ったら、優しいお兄さんが卒倒してしまいそう。ただでさえ心配してくれているのだから。申し訳なくてたまらない。
(うぅ……。お許しください。私はお兄さんに、嘘をついています。とても、悪い子です)
心がずきずきと痛む。
「それにしても。一人の男を巡って女の子二人、大喧嘩とはね」
「お二人とも、親友だったそうなのですが」
結果的に、二人の仲は修復されたようだ。それはそれでよかった。
髪の短い女の子も、例のお兄さんに愛想を尽かして、交際を解消していた。
ーー事件が解決した後のこと。
『今更だけど、あなたは誰?』
二人のお姉さんに聞かれて、狐乃音は答えた。
『うきゅ……。ええと。私はその……。と、通りすがりの、神様です!』
そうとしか、答えが見つからなかった。
それから、狐乃音は女の子二人にたっぷりと可愛がられたものだ。
狐尻尾をもふもふされたり、耳をふにふにされたり、抱っこされたり、一緒に写真を撮ったり。
彼女達の、光を失っていた目は、すっかり元の輝きを取り戻していたのだった。
「あのおにーさんの所行を見せてあげたら、悩むのがばからしくなったと言っていました」
「百年の恋も一時に冷める、ということかな。恋多き人には、余程理解してくれる人じゃないと、上手くいかないよね」
「はい」
狐乃音は思う。
今回の一件は、愛情と憎悪は表裏一体なのだと、痛いほど実感した。
では、自分はどうか?
(……大好きなお兄さんに、ひどいことをしてはいけません。どんなことがあっても)
想像したくないことも、たくさんある。狐乃音ははふーとため息をついた。悪意に支配されないように、気をつけなければいけない。
「やんでれさんは、お話の中だけにしてほしいものです。まったく」
狐乃音は、きつく結んでいた襷をほどきながら、そう言った。お兄さんはうんうんと頷いていた。
「そういえば。その、恋多きプレイボーイはどうなったのかな?」
「ミスタープレイボーイですか? もちろん、それ相応の罰を背負って貰いましたよ」
「へえ。どんな罰?」
狐乃音は、どこからかお札を一枚取り出して、言った。それを使って、呪いをかけた模様。
「本当に反省するまでの間。誰かと恋をする度に、今回のお姉さん達が、刃物を持って襲いかかってくる幻覚を見てもらうことにしました」
「うわ……」
なかなかにえげつないペナルティだ。
狐乃音ちゃん、今回の件は、結構怒ったのかな?
お兄さんはそう思うのだった。
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