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2.悪い夢
それは、ぼんやりとした夢の中での出来事。
「ふう」
一仕事終えた狐乃音は、腕を伸ばし、大きく息をついていた。
「終わり、ましたぁ。うきゅ……」
疲労困憊で、ふらふらのへとへと状態。
ーー狐乃音は日々、神としての特殊な力を使って、病におかされた人達の治療を行っていた。
どういう経緯を辿ったのかはわからなかったけれど、小さな診療所を開いていたようだ。
神とはいっても、狐乃音の力には限界があった。力を使い続けると、疲労困憊になってしまうのだ。
使った力が強ければ強いほど、回復するのに時間がかかってしまった。
「私は、燃費が悪いのです……」
というわけなので。治療を行うのは、日に数人に限定していた。狐乃音はまだまだ、神として未熟なのだ。
けれど……。
このところ。全国的に奇妙な感染症が流行っているからか、治療の追加依頼が後をたたない。
その度に狐乃音は、丁寧に断りを入れていたのだけれど、どうにかして見てほしいという悲痛な声が、聞こえてくる。
どうして助けてくれないのか?
もっと、多くの人を治せないのか?
そんな感じに。
「うきゅ……」
背筋がぞわっとするような、違和感を覚える。狐乃音は戸惑った。常に最善を尽くしているつもりだが、限界はあるのだ。けれど、そんな狐乃音の事情など、追い込まれた人には聞き入れられなかった。
声は更に大きくなる。
実はお金儲けが目的なんだろ?
わざと力を出し惜しみしているんだろ?
「ち、ちがいます! 私。そんなつもりは……」
狐乃音の純粋な善意は、誤解されていく。
私の子を助けて。お母さんを助けて。お父さんを、おじいちゃんを、おばあちゃんを、兄弟を、友達を……。みんなを助けて! お願い! このままじゃ死んじゃう!
藁にもすがるような叫びが、狐乃音に向かって降り注ぐ。
「で、でも……」
やがて、彼らが抱いている焦りは苛立ちになり、猜疑心へと変わっていった。
そしてそれは、大勢の人の形になって、狐乃音の周りを取り囲んだ。刺のように咎める視線が、狐乃音の小さな身体に突き刺さる。
「あぁぁ……」
狐乃音は怯え、自らの無力さを恥じた。どう頑張ってもできないのだと、絶望感を味わった。
「ご……ごめんなさい! ごめんなさい!」
神として未熟な自分が、情けなかった。
「できないんです! 許してください! う……うああ!」
じんわりと、狐乃音のくりくりした目元に涙が浮かぶ。おろおろと取り乱す姿は、小さな子供とまるで変わらない。
どうしようもなくて、狐乃音は力なくうずくまって、泣きだしてしまった。
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