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5.深呼吸と魔法使いさん
「落ち着いて。こういうときは、深呼吸だよ」
お兄さんは、得体の知れない恐怖に支配された狐乃音の肩に手を置いて、落ち着かせる。
狐乃音は、お兄さんに言われたように、ラジオ体操第一のような動作をとってみた。
「はい~! すーはーすーはー! すーはーすーはー。……何だか、本当に落ち着いてきました。お兄さんは魔法使いさんみたいです」
圧倒的安心感。お兄さんはすごいですと、狐乃音は思った。
「それはよかった。……実は僕が魔法使いだってこと、ついにばれちゃったね?」
「あれれ? 隠していたんですか~? ふふふ」
二人、冗談を交わしながら、楽しく笑いあう。それだけで緊張は解れ、恐怖という名の魔は去った。
「それで。何があったの?」
「えっと。どこかで。……多分、この街の近くで、とてもよからぬことが起きる。そんな気がするんです」
お兄さんは、黙って聞いてくれた。
「私の思い過ごしなら、いいのですが……」
「思い過ごしじゃ、ないと思うよ。きっと」
お兄さんは、楽観的な観測を否定した。
狐乃音が強く恐れを抱くようなものだから、きっと何かがあるのだろう。これまでの経験から、お兄さんは言い切った。
狐乃音は見た目も性格も、小さな女の子だけど、それでもれっきとした神様なのだ。
その力は、本物だった。
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