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7.火花
斬撃!
ガキンと鈍い音をたてながら、狐乃音は重みのある一撃を受け止めた。
そして、息も止まるような鍔迫り合いが続く。ギャリギャリギャリと、金属が激しく擦れる音が暗闇に響く。
やがてその相手は密着の状態を嫌ったのか、カキュンと跳ねるような音をたてながら後退し、一旦間合いを取った。
「うきゅっ!?」
どうにか一発目は抑えた。しかし、すぐに次がくるはずだ。ぼやぼやしている暇はない。
(は、速い!)
その相手は野生動物の如く、低い体勢で駆け出した。それはまさに、人にあらざるもののように、俊敏だった。狐乃音には、消えたかのように感じた。
(もしかしてこれは、居合いという型ですか?)
緊張からか、狐乃音の狐尻尾と耳は、毛が逆立っていた。
(行かせません!)
大きな脅威を感じた。それでも、狐乃音は一歩も引くつもりはなかった。
狐乃音は、誰かと戦った経験など一度としてなかった。けれど……。
(そんなこと、言ってる場合じゃありません!)
勿論怖いし、泣きわめいて逃げ出したい状況だ。でも、それ以上に今はやらなければならない時なのだと、わかっていた。
(この人を、止めるのです!)
きっと何か、深い事情があるに違いない。
落ちつかせて、話を聞きたい。
(やるのですっ!)
◇ ◇ ◇ ◇
数分前のこと。
ーーここは、町外れの森。
ぴょんぴょんと軽快に屋根を駆け、木々の枝を飛び越えていく。そのようにして狐乃音が、強い念を辿ってきたところ、街灯もまばらな広場に辿りついた。
深夜と言うこともあって、人の気配はまるでない。……はずだった。
『うきゅ?』
人がいた。
高校生だろうか? 制服を着た男女がいたのだ。
『ひいいっ!』
男の方は上ずった声を上げ、腰を抜かしたように、地べたに座り込んでいた。恐怖に目を見開き、必死に後ずさりをしようとしているようだ。明らかに様子がおかしかった。
『……』
もう一人の女……。長い黒髪が特徴的な彼女は、ゆったりとしたスローなテンポで、男の方に近づいていった。
右手に、何か長くて鋭くて、微かに光るものを持っている。
『あ……』
冷や汗が出るような、強烈なプレッシャーを感じる。
これはまずいです! 非常に危険です! 狐乃音は本能的に、駆けだしていた。
女が男に向かって、振り上げたそれを叩きつけようとしたのは、狐乃音が動き出すのと同時だった。
『だめですっ!』
狐乃音は咄嗟に、神としての力を使った。
『はぁぁっ! スターライト、小太刀!』
狐乃音はどこからか、金色に光り輝く小脇差を取り出して柄を握り、女が振り下ろした一撃を、確かに受け止めた。
暗闇の中に火花が散り、ガキンという鈍い音をたてる。それでもどうにか間に合った! 間一髪のところで、男を切り裂こうとしていた狂気の一撃を防げた!
(鋸、でしょうか? 何が何だかわかりませんけどっ!)
とにかく止めなくては!
(ばとるもーど、発動です!)
狐乃音が念じると、しゅるしゅる、ぎゅっと、手を使うこともなく巫女装束に襷がかかる。相手を迎え撃つために。
(警察さんに、通報しなくてよかったです)
お巡りさんを、こんな危険極まる目に遭わせなくてよかったと、狐乃音は思った。
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