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8.新手
妙だと狐乃音は思った。
この相手。……長い髪の女の子は、まるで狐乃音を見てはいなかった。
余程のことがあったのか、目には光が無く、言葉もない。まるで、人としての感情を失ってしまっているかのようだった。
「うぎゅっ!」
狐乃音は新たな斬激を、またも小太刀で受け止める。確かに強烈な一撃だけど、どこか投げやりに感じる。邪魔だからどいてと、そんな意志が込められているかのように。
(私に向けられたものでは、ないですね)
敵意を向けられているのは、あくまでも後ろの方で地べたにへたり込んでいる男の方だった。
狐乃音は成すべき事を理解していた。戦うことは目的ではない。どうにかしてこの女の子の凶行を止め、無力化させる。それが最優先だ。
けれど、どうすればいいのか?
「えっ!?」
解決策を思案したその時、狐乃音は気づいた。横から別の、女の子が襲いかかってきたことに。不意打ちだ。
(えええっ!? ふ、二人ですかっ!?)
髪の長さが、肩くらいまでの女の子。
狐乃音がいま対峙している子と、同じ制服を着ている。その子も何かに操られたかのように、目には光が宿っていない。家庭用の、どこにでもありそうな包丁を握りながら、突撃してきた。
「い、いったいぜんたい、なにが起きてるんですか!? 物騒すぎます!」
どうやら標的は、狐乃音の側にいる髪の長い子のようだ。動きに一切迷いがない。
「ええいっ!」
一人でも手に余るというのに、二人とは!
狐乃音は咄嗟に考えた。
さっきは何も考えずに、神の力で小太刀を用意してしまったが、それでは何かの弾みで相手を傷つけてしまう可能性がある。刃物はだめだ。危険だ。
……さりとて、二人分の攻撃を無難に止めなければならない!
(どうすれば!? ……そうだっ!)
狐乃音は、両手で掴んでいた小太刀の柄から、左手をぱっと放して……。
「させません!」
ガキンと鈍い音。狐乃音は包丁による突きを、力強く弾き返していた。
「スターライト・御用スティックなのです!」
奇っ怪な名称だが。狐乃音が右手で握っている小太刀と同じように、金色に光輝いているそれは、時代劇に出てくる十手だった。
狐乃音は、お兄さんが時折仕事中に流し見をしている影響で、時代劇に触れることがあった。
それで、何となく気になっていたけれど、名前が思い浮かばないものを使用した。あれならば、安全に対応できるのではないかと考えたから。
(御用だ御用だー! と、提灯を持つ男の人が叫びながら手に持っているアレです。……名前、なんていいましたっけ?)
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