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6.そーいうわけでだ
「貴様をここに置いてやる。ありがたく思え」
「あ、ありがとうございます!」
あたしも鬼ではない。話しているうちにだんだんとこの妙ちくりんな異星人のことが哀れになってきたので、温情を示してやることにした。
ただし。部屋の主であるあたしはこの居候にいくつかの条件をつけた。
どうやら色々な姿に擬態ができるということなので、基本的に人型の形態をとり、服もちゃんと着ること。ぬめぬめした触手液を分泌するのは当たり前だが禁止。当然ながらお外には出ないこと。室内飼いのペットみたいなものだ。
「遵守しろ。さもなくば貴様を保健所につきだす」
「守ります! 守りますから保健所は勘弁してください!」
「よし。あと、お前の寝床は隣にある物置の片隅な」
余計な荷物をどけて、スペースを確保してやった。
「あ、ありがとうございます!」
そんなんでも宿無し状態よりは遙かにマシなようで、感激していた。
「しかしまあ。触手淫獣と同居とはな……」
あたしはきっと、どうかしているんだ。疲れているんだ。
「あ、あの……」
「あん? 何か文句あんのか?」
「い、いえ……」
「いいよ。言わせたる。言いたいこと言えよ」
「ぼ、僕。家事……がんばります! 少しでも結美奈さんのお役に立てるように!」
「ほーかいほーかい。まぁ、せいぜい励むがよい」
どうせそこら辺にいるようなごく当たり前の平凡な異星人であろう。うまくできるはずがない。
あたしはこいつのことを、そんな風に舐めていた。
ところが予想は外れたのだった。
こいつ……。作る飯はどれもこれもうまいし、帰ったら部屋中が整理されてぴかぴかになってるし、風呂は綺麗に洗われて沸いてるし。しまいにゃあたしのスーツは綺麗にアイロン掛けまでされていた。家事万能な主夫かっ!
「結美奈さん。お味はいかがですか?」
「ん。わ、悪くねえ。……う、うめえじゃねーか」
「よかったです!」
濃くなく薄くもなく。良い塩梅な味の味噌汁。何か昔実家にいた時に毎日飲んでいたような……。
なんなんだよ! これだけ見れば爽やかな好青年じゃねーかよこの触手淫獣は! 何かむかつくぞ!
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