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「お嬢様は、3次会に参加されなくてよろしいのですか?」
運転手の重松が心配そうにうかがう。
彼は私が幼い頃に雇われた、子供用の運転手で。
就職してからは個人的に雇ってる、私が唯一心を許せる人間だ。
「もう十分役目は果たしたでしょ。
楓くんも、私がいない方が楽しめるだろうし」
だから私は疲労を理由に、あとは楓くんに押し付ける形で帰路に着いてた。
「……でも実際、ずいぶんと気を張られてお疲れになったでしょう。
帰ったらゆっくりと休まれてくださいね」
「ありがとう。
重松も疲れてるだろうに、悪いわね」
「いえ私は元気発剌でごさいます。
お嬢様がずっと想われた方と結ばれて、もう嬉しくて嬉しくて」
「やめてよっ。
わかってるでしょ?これは契約結婚よっ?
私は彼を脅迫して、結婚に漕ぎ着けただけなんだから……」
そう、この結婚は復讐のための契約でしかない。
1年前の5月。
橋元フィルムの社長である父が、癌で他界した。
そこで問題となったのが後継者だ。
私には、継母の連れ子である3つ下の弟がいて。
継母は当然、弟の琉司を社長にしたがっていた。
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