三人の「お母さん」

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鉄治は弁護士の「違法スレスレ」と言う言葉を聞いて、自分の存在(うまれ)が違法だと言われたような気がし、存在が否定されたと思い、その場で火が点いたように泣き崩れた。 真っ先に鉄治に駆け寄ったのは海子だった。小学校六年生にも関わらず、赤子や幼稚園児が火の点いたように泣く姿を見ていられなくなったのである。 「いい加減にしてください! 子供の前で聞かせてはいけないことを言って!」 水無月は引かない。 「そこの代理母が変なこと言うからで」 カンコも引かない。 「あたしはこんな女優さんが母親に相応しくないと思ったまでで」 弁護士は自分の「違法スレスレ」という言葉が鉄治を傷つけてしまったと気が付き、申し訳無さそうな顔をし、一歩引いた。 その後も意見は平行線、口汚く罵り合う水無月とカンコ、時折仲裁に入る弁護士。海子はあまり口を挟まない、鉄治と同じ遺伝子も血も持たないと言うことで二人が口を挟ませないと言う方が正しいだろう。 話し合いが始まり一時間が経過したところで、鉄治は弁護士の背広の袖をクイクイと引っ張った。 「どうしたね?」 「僕、お母さんと一緒に帰ります」 すると、水無月とカンコは鉄治に駆け寄ってきた。二人は既に鉄治と一緒に帰ることが出来るものと思い込んでいた。水無月は「あたしの子供になれば贅沢をさせてくれる」と勝利を確信し、カンコは「血と肉と骨を分け与えた産みの母と一緒にいたいに決まっている」と勝利を確信していた。ただ一人、離れた場所にいる海子は「贅沢もさせて上げられない普通の家で血の繋がりのない私なんて…… あの子が選んでくれるはずがない」と諦め窓際に佇んていた。水無月とカンコからは「鉄治くんの荷物の送り先です」として住所のメモを無理矢理渡されている。ちなみに、今回の話し合いではロクに鉄治と話をしていない。
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