三人の「お母さん」

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三人の「お母さん」

 一人の少年があった。名は鉄治(てつはる)。彼はある日のこと、母親の海子(うみこ)と共に家庭裁判所に赴いていた。 「ねぇママ、今日はここで何するの?」 海子は鉄治の問いに答えない。二人で手を繋ぎ、長く静かな廊下を歩き辿り着いたのは「評議室」であった。 鉄治は海子と共に評議室に入る。評議室には、海子と同世代と思われる女性二人と、向日葵のバッヂを着けた弁護士の男が椅子に座っていた。 女性二人は鉄治の顔を見た瞬間に満面の笑みを見せ立ち上がろうとした。しかし、弁護士に手を掴まれてしまう。女性の内の一人、上品そうな女性は弁護士に怒鳴りつけた。 「何するのよ! 息子を抱きしめることも許されないわけ!?」 弁護士は能面のような無表情で首を横に振り一言。 「いえ、まだ決まったわけではありません」 もう一人の女性は、ふくよかな肝っ玉母さんを思わせる優しそうな外見をしていた。 海子はパイプ椅子を引き、鉄治に座らせた。そして、向かい側の二人の女性が座る方へと向かい、並んで座ることになった。 弁護士はツカツカと歩き、手に持ったタブレットと鉄治の顔を見比べる。 「うむ、間違いなく鉄治くんですね」 鉄治は何が何だかわからずに首を傾げた。上品そうな女と肝っ玉母さんは満面の笑みを鉄治に向け続けている。海子だけはいつも鉄治が家で見るような笑顔をしておらず、どこか憂いを浮かべた顔をしていた。 暫しの沈黙の後、弁護士が口を開いた。 「えー、集まりましたね。これより、鉄治くんに『事情』の説明に入ります。お母様方、よろしいですね」 女性三人は弁護士に向かってコクリと頷いた。弁護士も頷き返し、鉄治の前に立つ。 「鉄治くん、これから君にとってスッゴク重要なお話をするから落ち着いて聞いて欲しい」 「何の話をするの?」 「えっと、鉄治くん、君は小学校の六年生だったよね。赤ちゃんがどこから来るのかはもう知っているかな?」 鉄治は小学校の保健体育の授業で「ある程度」のことは学んでいた。口に出すのは恥ずかしいのか、僅かに赤面しながらコクリと頷いた。 「えっと、お父さんの精子とお母さんの卵子がくっついたものを受精卵。それが大きくなって赤ちゃんになることは知ってるね?」と、弁護士。 何を言っているのだろうかこの人は。保健体育の課外授業をしているのだろうか。それも母親同伴で行うなんてどうかしている。鉄治は訝しげかつ不快そうな顔をしながらコクリと頷いた。弁護士はそのまま続ける。
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