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『面白い感性してるんだ、アイツ。バンドのボーカルやってるんだけど』
『スリーマンのイベントの前座として出演が決まったっていうから、行ってみない? 現役高校生ロックバンドから若さを吸っちゃおう』
彼女があまりにも楽しそうに弟のことを話すもんだから、どんな奴か拝んでやろうと思ったのだった。
正直、僕は音楽に疎い。
ロックバンドだけじゃなく、アイドルとか、流行りの音楽すら知らなかった。
だけどあの日。
初めて訪れたライブハウスは小さくて、ガラガラで。
テレビで観るような、大きな会場が人間で埋め尽くされている光景とはまるで別世界だった。
湧いてきたのは驚きではなく、昂揚感。
それでも確かに言えるのは、その瞬間、僕の価値観が変わったということだ。
ギリギリ未成年だからアルコールは頼めなくて、600円のドリンクチケットは500mlのミネラルウォーターと交換した。
やけに高い水だと思う一方で、すごく、すごく美味しかった。
――その日を境に、いろんなインディーズのバンドを観るのが趣味になった。
ライブというのは生き物だと思う。
いつまで経っても歌の良し悪しはさっぱり分からなかった。お気に入りのバンドができることもなかった。
スカスカのフロアに向かって「盛り上がってるかー!」と叫ぶパフォーマンスに引くこともあった。コールアンドレスポンスにはほとんど参加しなかった。客の大半が明らかにボーカルのファン、みたいなときもあった。
物販で何かを買うこともなければ、バンドのメンバーと会話をすることもない。
同じバンドのライブに二回以上行くことはほとんどなくて名前すら覚えていなかったりするのだけど。
人間のエネルギーが爆発する瞬間が、そこにあるような気がしたのだ。
音を浴びる度、全身を、いいようのない何かが駆け巡っていく。
その瞬間にしか味わえない熱量に、僕はすっかり魅了されていた。
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