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「ねぇ、覚えてる?」
懐かしい声に、記憶が一気に蘇る。
鮮やかに、まざまざと。
そう。あれは、小さな小さなライブハウスだった。
入り口には手書きのブラックボード。
地下への階段に貼られたサイン入りのポスターは、見たことも聞いたこともないバンドばかり。
壁に染み付いた煙草の匂いに、眉をひそめた。
下ってすぐの受付で出迎えてくれたのは、やる気のなさそうな店員。チケットをもぎられ、目当ては誰と尋ねられた。
たどたどしくバンド名を答えて、ドリンク代の600円を支払うと、また別の小さなチケットを手渡された。
防音扉を開けると、広がっていたのは想像とは違う空間だった。
面積でいえば高校の教室の半分もなかったはず。
ステージとフロアの高低差はほとんどなく、飾りのような柵があるだけ。
フロアの客は、たった五人。
ボーカルの、大学二年生の姉。
ギターの親友。
ベースの追っかけ。
ドラムの彼女。
そして、僕だった。
僕が何者かといえば、ボーカルの姉の彼氏だった。
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