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元奴隷(騎士)×コミュ障受け
元奴隷(騎士)×コミュ障受け(バレンタイン)
「ウィル様、こちらをどうぞ」
「なに、これ?」
「開けてみてください」
不敵な笑みを浮かべるルシウスから手渡された小さな箱。まぁこの男の事だ、どうせ俺に不釣り合いな装飾品かお菓子だろうとは思ってたけど、ややひんやりした箱の中身は生チョコレートだった。
「ルタ国では今日という日をバレンタインデーと定め、親愛の情を込めてチョコレートを贈る風習があります。そして愛の告白をする者も…、まぁちょっとしたイベントです」
「……」
ルタの記念日はどうでもいいけどチョコレートは嬉しい。だって見覚えのある箱だ、幼い頃からずっと通っていた故郷に一店しかないお菓子屋さん。
ずるい男だ、ここのチョコなら俺が絶対に受け取ると分かってて取り寄せたのか。
恐る恐る一つを口に入れれば懐かしい味に肩が震えた。
「おい、しい…」
「それは良かった」
「みんな、元気にやってる?」
「それはいま口に含んで分かったことでしょう?」
もしも酷い混乱の最中ならお菓子屋なんてやれてるはずがない。
父上がいなくなっても変わらず店がやれている、味だって変わってないんだから流通も滞ったりしていないのだろう。
”大丈夫です、変わらず元気にやっています”、と遥か遠くからメッセージが聞こえてきそうだった。
つい嬉しくてもう一つを口に入れたとき、
「ウィル様、私にも頂けますか?」
「ん、」
箱を差し出せば「いえ、そちらではありません」とチョコレートの箱はベッドの片隅に置かれ、ルシウスの顔がゆっくりと降りてきた。
「んっ!?ん゛んっ…、っや、るし、!」
くちゅ、くちゅっと溶けかけのチョコレートのせいでいつもより粘り気の強い音が響く。
甘くて、生暖かい、いま俺の舌に触れているのがチョコなのかルシウスの舌なのか…
「や、やだ、まっ、っ…ンんっ」
~~~~っ、いやだ、こんなキスは!!
ドンドンッと強めに背中を叩いても頭を振り払おうとしてもダメで、ルシウスの蹂躙するかのように激しい口づけに耐えるしかなかった。
「―――、っ、はぁ、はぁっ」
「なるほど。大人よりも子供が喜びそうな味ですね」
「………る、しうすッ」
”主人”を反抗的な目で見てはいけない
だけど……!
ジッと恨めし気に睨んだってルシウスの綺麗な表情は崩れないし、むしろ悔しそうな俺を観察したいのだと組み敷いたままだ。
「久しぶりに強気な目を見ました」
「っ、…」
「ふっ。なんて、今日は意地悪を言うつもりはありませんよ」
怖がらせてすみませんでした、とようやくウィルの上から体を起こした。
”とても背徳的な味だ、まるで貴方の故郷を貴方の中で犯しているみたいで何度でも味わいたくなる”
そう続けるつもりだったがウィルを追いつめ続ける気は毛頭ない。
それにルシウスの中ではウィルにも非があった。
チョコを貰ったのが嬉しいのではなく、故郷に思いを馳せて綻ばせた表情で嫉妬をさせた。それにルシウスは他ならぬウィルに約束していた。あの土地の平穏を… それを疑われたのも少々癪だった。
――――奴隷であるのにウィルからは絶対にルシウスに媚びない。
そして好きな子に意地悪をしてしまうような子供染みたやり方しかルシウスは知らず、出来なかった。
(今更、………)
完全にベッドから立ち去ろうとしたとき、くいっとルシウスのシャツを掴む手が伸びた。
「ウィル様?」
「ルシウスは、誰かからチョコ、貰ったの?」
「はい。国民を喜ばせるのも私の勤めなので、菓子のみは受け取ります」
「……でも、受け取ってもらった子は勘違いするんじゃないの」
そんなことは考えたこともなかった。
チョコを贈ってくれた中にはルシウスに振り向いてもらおうと必死だった者がいたかもしれない。
あんまり人の気持ちを弄ぶな、とウィルは怒っているのだろう。
「安心してください、私には好きな方がいるので断ってます」
「ハッ、よかった。犠牲者がいなくて」
「そうですね、犠牲者は………貴方だけで」
よいでしょう、の声と共に再び触れ合う唇。
(ルシウス、…、…)
今度のキスは優しくて甘く、もうしないはずのチョコの味がした。
――――――――――――――――――――――――
(おまけ)
(う、うう゛~~~~っ)
兄ヴェルトとルシウスの剣稽古の様子を茂みからじっと見つめる二つの瞳。
書物で知った、ルタには恋人達だけの特別な日があるんだと
そこでは今日好きな人にチョコを贈って、告白して…
~~~~~~~~~~いやいやいやいやいや!!!
むしろさぁルシウスは気持ち悪いって思うんじゃないかな!?断ってからもめっちゃ気にするかも、翌日からよそよそしくなっちゃったら!?
やっぱり誰かからの贈り物だって言った方がいいような… でも誰の!?
感謝の気持ちってことで渡す!?!?
「おいルシウス、あそこでずーっとキノコが生える寸前の愚弟は、貴方に用事があるようだ」
「の、ようですね」
「?どうした、いつもならすぐ動くだろ?」
「いえ。今日は私からいかない方がよろしいかと。それよりもそのウィル様をニタニタと見守ってる旦那様の方が気になります」
「………なにをやってるんだ、うちの馬鹿家族は」
・ ・ ・
あとがき
結局ウィル君はチョコを渡せませんでした。なので勇気をもってチョコを渡せる人=ガチ勢だと思ってます。
屋敷にいたころのルシウスは、どうやってこのお坊ちゃまが告白逃げしないよう捕まえるかしか考えてません。
ちなみに今回ルシウスからチョコを貰えたこと自体は―――――――。
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